Friday, February 22, 2008

[film] The Last King Of Scotland

(ネタばれだらけです。ご注意ください)

ひょーーえーーーーーーーー。
こわっっっっっ!!!

いや,しかし何というか……良い映画だと思います。
(実は時間の都合でかなり間をあけて3回に分けて見たんですが,
とても印象的なストーリーなので続きから見てもノープロブレムでした。
実はニコラス役のジェームズ・マカヴォイの外見がほんのちょこっと苦手だけど。
世間的にはハンサムに部類されると思うのにおかしいな…なんでだろう…)

この映画は歴史的な意味でのアミンの立ち位置はあんまり教えてくれないんですが,
(つまりどんな殺戮を行ってそれがどのようにウガンダ政治と人々の心に影響したかなど)
お話としてはとても良くできてると思いました。

何ていうか・・・海外の友人達と自分との関係とかも考えさせられました。
バックグラウンドが違うと,それゆえに友情が燃え上がることもあるけど,
それゆえに実は全然お互いを分かってないんじゃないかって恐怖がありますよね。

考えさせられたポイントは以下2点。

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1. 野蛮さへの恋慕

前半ニコラスがアミンを,ある意味買いかぶっていくプロセスとか,
アミンがニコラスを魅力的に感じて近くに置きたいと思っていくプロセスとか,
二人は初めから凄く危ういバランスと一種の勘違いの上にいる。ドキッとさせられます。

アミンはスコットランド贔屓なだけあって英語に不自由を感じさせないんですけどね。
(少なくとも聞き取りは。発話はかなり不自由そうだけど。
発話が不自由だとメチャメチャ下品で野蛮に聞こえるから怖い。私もああなのかなぁ;溜息)
まあでも,アミンが英語に堪能な割りにお互いへの勘違いは歴然とある。怖いです。

危ういバランスの中で惹かれていく理由は何か。
ニコラスの野蛮さへの憧れがあるのではないかと思います。

例えばアミンが腹痛を毒殺未遂だと思い込むところとか,
病気の息子を隔離するところとか,無知による一種の「野蛮さ」がチラチラ出てきます。
途中までは,その野蛮がチャーミングにさえ見えます。

当初ニコラスにしてみれば,夢溢れるリーダーのその野蛮さを自分が補うことで,
自分が若い国に大きな貢献をしていけると感じたのではないかと思います。
当初「顧問」と呼ばれて悪い気がしないのは,少し倒錯的なレーゾンデートルを与えられるからだと思う。
(ちょっと『王様と私』とかぶりますね。あと以前このブログでも書いた『南太平洋』の「バリ・ハイ」)
そういう感じ?ニコラスの,相手の野蛮さに惹かれ,また無意識に自分の存在意義にもしてしまう感じ?
仲の良いディベート・コーチの中には日本にそれを求めてる人,確かにいる気がします。
野蛮さへの恋慕を「見下したい無意識の欲求」と言ってしまえば,まあそういう側面もありそう。

その恋の媚薬として登場するのが被差別者の怒りと夢。
特にスコットランド出身のニコラスには共感しやすかったみたい。
英国外務省の人に仲間扱いされたニコラスが,
自分はEnglishではなくScotsmanだと訂正するシーンとかに
ニコラスがアミンに惹かれていくまでの丁寧な付箋があります。

もし仮に私が,どっか外国(ヨーロッパとか)で「同じ中国人同士仲良くやっていこうや」
とか言われたらやっぱり訂正したいと思うだろうか……とか考えてしまいました。
(これは微妙だな。あそこまで意思のある訂正は別に必要としないかも。気が向いたら位かな)
逆に例えば韓国の人がオーストラリアで日本人に「同じ極東から来たもの同士」
とか言われたら微妙な気分になるんだろうか……とか。これは経験的にYesっぽいかな。
極東というくくりなら地理的には問題ない表現だから突っ込まれはしないだろうけど。
(ちなみにエルキュールポアロは必ず「フランス人じゃなくてベルギー人です」と訂正)

何でも被害者集団の方がアイデンティティーへの拘りは強いものですから,
そういうイングランドに対するちょっとした反感みたいなのがあったとすれば,
Scotland贔屓の大統領ってのはよけい親近感を持つ理由になるのかなぁ……と。

特に前半は,アミンの過激さを伴う情熱とニコラスの邪気のない軽薄な善意に
「おわー,アブなーー!!」とは思うものの,
多少理解というか同情というか共感というか想像できなくもないと思えるわけです。

例えばパーティでアミンが振りかざすアブナイ内容のスピーチ(「ギリシャには哲学をアラブには薬学を盗まれた。しかしアフリカはその歴史を誇りに思わなければならない。今日の食事は全てローカルフードだ」とかなんとか言うシーン)に,拍手を送るニコラスの無邪気な笑顔は,果てしなく軽薄だけどやっぱり善意の賜物かな,と。

別に私には誰かを殺戮するつもりも予定もまーーーったくないわけですが(笑),でも,友人たちは私がアミンの立ち位置だったらどうしようってひょんな時に不安になるんじゃなかろうか,って思います。同じように私は彼らが彼ら自身をニコラスの立ち位置に重ね合わすんじゃないかって時たま不安になる。ポストモダンのその後に放り出された感じ?お互いを決め付けてしまいそうな自分と戦わなきゃいけない感じ。んーーー,私の英語がもう少し上手だったら,このモヤモヤについて相談したい人はいるんですけどね。あー,でも話してみて凄いがっかりしそうな予感もする(笑)過去数回失敗しているのが私の英語のせいばかりとはちょっと思えないので(笑)

日本のディベート界は果たしてお抱え外国人を迎えようとする「野蛮な未開の地」として見られるべきなのかなぁ……。実際彼らが助けになってくれるなら拘る必要ないのかな。大体このグローバル化のご時世にちょっと一方的なのが気にはなるけど人材交流なんて当たり前,ゴチャゴチャ考える方が変かなぁ。でも,彼らが野蛮さを探し野蛮さに憧れる限り,「もしアミンだったら」恐怖症は消えないだろうと思ったりします。むーーーーー。はふう。言葉の壁って嫌ねー。

逆に,スコットランド(イングランドに蹂躙され,しかしウガンダに対しては優位に立ち,蹂躙されるウガンダの憎しみに惹かれる)の位置に日本を置くと,また別な景色が見える気もします。例えば東南アジアに開発援助を送りインフラを整備し,アジア通貨危機から立ち直るためのリーダーとなる日本。似てません?映画「僕らはみんな生きている」の世界。

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2. 愛憎の振り子

もう一つはクレッシェンドしていく矛盾。

映画で最初に出てくるのは多分アミンの身の上話のシーン。
英国人に奴隷のように使われてた俺が大統領になった時の後ろ盾は英国だった,
と語る彼の口ぶりは,なんていうか,その瞬間は知的で理性的に聞こえたりします。
この時Scotsmanニコラスは心が大きく傾いたんだろうなー,って感じられます。
その後,この前半に語られた矛盾がリフレインされて段々振れが大きくなります。
他者を忌み嫌うと同時に抗えないほど必要とする矛盾。その苛立たしさ。不信感。

私の場合はついつい言葉の壁におきかえて観てしまうわけですが,
映画ではそういう葛藤は主に人種の壁という形で出てきます。
最も端的には,ニコラスの同僚の医師の言葉に託されています。
「黒人の女だから(避妊を)しなくても良いと思ったのか」という言葉にはドキッとさせられます。
(しかもそこで口ごもるニコラス。おい,そーなんかい!!!??ちょっと,どーなの)
そして同じ医師が
「世界に伝えてくれ,この国の現状を。人は君を信じる。君は白人だ」とも言う。
(まあ,ちょっと噛み砕き過ぎてる感もありますが,他の部分が難しいから良いかな,と。
あとアミンとニコラスが子供なので,こういう大人目線な人も必要。
役回りをきっちりこなしていて好感度の高い医者役です。)

アミンのニコラスとの距離のとり方にも同じような揺れが見られます。
白人を詰りながら白人を頼る構図が緊張感を高いままにします。心臓に悪い。
ちょっと妙な表現だけどSとMの役割分担がクルクル入れ替わりまくるみたいな感じ?

けど身に覚えのある緊張だったりもします。
コーチ達の「分かろう」としてくれる姿勢に感謝した直後,
同じ姿に同情するなんて傲慢だと感じたりもする。
更に酷いと「どうせ分からん」と思ったりも。
「どうせ分からん」と「分かって欲しい」の二重奏は相当お互いに不自由で,
がんじがらめでニッチもサッチもいかない感じ。

それにしても色んな人が書いてるし沢山受賞したみたいですが,
アミン役のウィティカーって良い役者さんですねー。
独裁者の片鱗を予感させた直後に魅力的で生々しい暖かさを感じさせる。
観ている内にニコラス同様観客の私も混乱するシーンが中盤ありました。
その危ういバランスが凄く人間らしい。
監督とカメラの良さも際立つ作品だと思いました。

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それにしても理想を追っかけるというのは,アミンのように狂気に取り込まれてしまったり,
(ていうか最初から相当アブナイ性格ですが……)
ニコラスのように自分の浅はかさに臍を噛む羽目になったりする危険が隣り合わせでしょうか。
(といっても最初から相当軽薄でお調子者キャラですが……)
けど,それでも夢を持たないよりはマシなような気もちょこっとします。

熱くなるのも冷えきるのも怖いですよね。難しいなー。(と誤魔化す)

とりあえず私のこの映画に対する評価は,
「『アラビアのロレンス』と『王様と私』に挟まれた隣人」って感じでしょうか。
うん。良い映画だと思いました。
個人的には「ホテル・ルワンダ」よりこっちの方が好き。

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