Saturday, July 15, 2006

羊の道物語 第三話 Road of the Sheep Vol.3

長いなー、このシリーズ。
書き終わる日は来るのかなぁ・・・

さて、昼食は「だろうと思った!」な特大サンドイッチ。
食べ終わるより早く二試合目開始。

二試合目:

韓国 対 平和チーム
インドネシア 対 夢チーム

論題: We support prisoner exchange within our region
和訳すると「囚人の域内交換を認める」といったところか。
これは、オーストラリアとインドネシアの間で行われるもの。
相手はインドネシアだから知識がありそうだが、
そんな理由で負けているわけにもいかない。
頑張るぞ、と。

さて、1試合目の反省を基に、ソネレック氏の手綱を夢チームが握る・・・
ことになっていた筈だがやはりソネレック氏は既に弾丸トークを開始している。
ちょ、ちょっと・・・話が違うんじゃないっすか・・・と思いつつ、
なんとか手綱の端でもつかもうとワタワタしました。

とりあえずまず訊いたのは、オーストラリアで執行猶予で釈放が早まる率がどの程度なのか、ということ。このディベートは基本的に裁判は全てインドネシアでやり量刑もそちらで決め、服役する場所だけが母国(ここではオーストラリア)になるというもの。けれどオーストラリアで執行猶予がやたらとつくならインドネシアが出す量刑は骨抜きになってしまいます。これはソネレック氏曰くかなりの確率で仮釈放されるとのことでした。

次の質問は、麻薬不法所持のように死刑判決が出る(東南アジアは麻薬には厳しいのです)犯罪だった場合、オーストラリアに連れて帰ってきてオーストラリアで死刑にする、というのはあり得るのかというもの。オーストラリアは死刑を廃止したので、もしするなら倫理上の議論が巻き起こるはず。ソネレック氏のこれに対する答はノーでした。死刑の場合は本国へ送還することにはならないだろう、と。

ここで、具体的な事例として有名なのは、コービーやミシェルのケースだとのことでした。しかしこれらはどちらも麻薬不法所持の例。そこがちょっと気になりました。

とりあえず①抑止力が失われること、②主権・裁判権の尊重 について話すことにしました。

肯定側インドネシア大は、インドネシアの刑務所のHuman Right Recordが悪いことを説明。拷問が行われていたり適正手続き(due process)が守られていないのだとか。だからインドネシアの刑務所で服役させるのは人道問題だ、と。更にオーストラリア人を守るのはオーストラリア政府の義務だと主張しました。第1スピーチはまあ、ほぼ想定内の内容でした。

問題は第2スピーチ。国際組織犯罪の元締めを裁く時に、捕まえた子分がオーストラリアにいた方が証言させやすい、という謎の議論が登場。・・・・・・?どういうこと?普通に召還するんじゃダメなの??

なんだかよくわからないままにドンドンドンドン細かいよくわからない議論が増殖し始めて、焦点が絞れませんでした。あと私はまたもや構成がダメ。何故上手くいかないのかよくわからないけど兎に角ストラクチャーに苦労しました。

結果はインドネシア大の勝利。これで1-1となりました。

羊の道物語 第二話 Road of the Sheep Vol.2

7月1日。二日目。

この日は3試合練習できることになっていた。
日本では一日に4試合も5試合もこなしてしまう我々にとっては、
あまりにもゆるゆるなスケジュールである。
とはいえ、豪亜大会の試合形式は世界大会と全く同じ長さ。
一試合一試合がやたらに長く重い。
朝から気合を入れて、と言いたいところだが
朝に弱い私はいつも通りギリギリまで布団の中だ。

寝ぼけ眼でホテルの朝食に降りてみると、
スクランブルエッグ・ベーコン・ソーセージ・トマトの水煮・ハッシュドポテトがある。
スクランブルエッグの色は健康そうな黄色。
何よりトマトがあるのが嬉しい。
本大会中もこれと同じものが出ますように・・・。

素晴らしく礼儀正しく5分前行動な平和チーム。
謝りつつ大急ぎで朝食をかきこむと、
集合場所のバッグパッカーズの宿へ6人で向かった。
昨夜往復して道を覚えたのは私一人なので、
方向音痴な私が珍しく先導を務める。
朝の冷たい空気の中で、私は奇妙な空虚感を感じていた。
あれが何だったのか、今も言葉にならない。

左手には古くて大きく立派な駅舎がある。
キティはすかさず写真を撮っている。
この駅舎は昨夜はライトアップされて夜空に浮かび上がっていた。
それは華やかで美しくて、それでいて妙に孤独な姿だった。
朝はこの建物の個性を奪い、代わりに慰めを与えているように思えた。

バッグパッカーズに着く。
ロビーなのか売店なのかわからない一階を通り抜けて
二階のラウンジへ。後ろから「本当にここですか?」という声が聞こえる。
確かになんだか学生寮の奥に迷い込んだような空間だ。
しかし安宿としてはかなり手入れが良い方だし、
こういうところは案外居心地は良いものだ。
よそ者だという気持ちを持たせないから。

ラウンジではレイン氏やピエトロパウリ氏たちがまだ朝食の真っ最中。
ディロン氏は共有端末でネットを使っていて挨拶にも生返事だ。
こういう時に「もう集合時間じゃないの?」「他の皆はどこ?」
「私たちどうしてれば良いの?」などと所在なさげにするのはNG。
基本的に自分自身が快適にしていることが気配りすることより大切な場だ。
ここは日本じゃない。誰も私たちに余計な気配りをすることなど求めていない。
手近なソファに深く身を沈めてお喋りでもしていることにした。

ニューズウィークをまわし読みしたり、
どんな議題が出そうかなどと雑談していると、
ジョージョー達はまたも写真を撮りはじめた。
こういう細やかさは自分にはないので、少し羨ましく思う。

ここでソネリック氏登場。
ピエトロパウリ氏は「鞄取ってくるー」と部屋へ戻った。マイペースな人である。
レイン氏が階下に集合と言うので降りてみると本大会責任者のビショップ氏がいた。
どうやら本大会の会場でもあるビクトリア大を今日も使わせてもらうらしい。
ビショップ氏の案内でぞろぞろとすぐ傍の大学の建物へ向かった。
先ほどの駅舎の隣のビルである。
なんでもメインのキャンパスは街の反対側にあるということで、今回は使わないらしい。

なーんだ、こんなに近いのかぁ、と小さい街主催のメリットを満喫。
横断歩道を渡っていたらディロン氏がキョロキョロそわそわしている。
そう言えばインドネシアのチームがいないぞ。
インドネシアチームもバッグパッカーズに泊まっている筈なのだが、
ラウンジに顔を見せなかったのだ。
「彼らの部屋番号わかる?」と呼びに戻ろうとするディロン氏に
ピエトロパウリ氏曰く、「フロントで聞いてみたら?」
「Ah, that's very helpful. Thank you.」というディロン氏の口調が可笑しくて、
ジョージョー達も私もつい笑ってしまった。
確かに言わずもがなな助言だし、そもそもバッグパッカーズに
朝早くからフロントにスタッフを張り付かせるような人的サービスがあるわけもない。
ピエトロパウリ氏の助言どおりにできるなら苦労はない。
こういう軽妙でちょっと斜に構えた受け答えはディロン氏らしくてチャーミングだ。

この手の会話に含まれるユーモアというのは言葉の壁を感じるシーンでもある。
日本語なら普段気にも留めずにしているような気の利いた受け答え。
これが英語だと出来ない時がある。
それはやたらとイライラする経験だ。
こうしたなんでもない会話こそが日常自分の個性を最も表現している部分で、
それを封じられてしまうのは社会性の羽をもがれた気持ちになる。

会話の妙を楽しむには英語力と共に精神的なゆとりがいる。
リスニングに懸命になっている状態では難しい。
肩を楽にして会話に溶け込むには慣れが必要だ。
聞き取れなくても聞き間違えてもかまやしねーさ、といういい加減さを要す。
聞き間違えて変な返答をしても大丈夫な相手だ、という安心感も助けになる。
そもそも聞き間違えなんて日本語でも日常茶飯事だと割り切るのも良い。
そういえば今回、英語でのユーモアに関しては
ちょっと嬉しいことがあったのだけど、それはまた後で。

はてさて階段教室に入り、雑誌を読んだり予想論題について話しつつ待つ。
待つ。
・・・。
待つ。
・・・・・・。
待つ・・・って他のチームどこっ??

韓国のチームはおろかインドネシアのチームさえ来ないぞ。
主催者はどうやら韓国チームのホテルに電話しようとしているようだ。
ちなみに我々と同じホテルである。
「韓国の子達は昨日見かけたんだけど部屋番号は忘れちゃった」と言うと、
複数の顔が一斉にこちらを向いて叫んだ。
「ああ、じゃあニュージーランドにいるのは確かなのね!!良かった!」

・・・・・・・・・。おい、まて。
その位誰か確認しておいて欲しいぞ。
放任もここにきわまれりの行き当りバッタリなマネージだ。
もしこの国に着いていなかったらどうするつもりだったんだろう。

しばらく始まらなさそうなので、
ヒメと私は、ピエトロパウリ氏たちと珈琲を買いに行くことにした。
キャンパス内の売店は土曜日なので開いておらず、
結構歩いて珈琲屋を見つけた。私はホットチョコレート。甘いのが幸せ。

帰ってきてみてもまだチームが揃っていない。
いい加減もう日本人同士で練習しようか・・・と思ったところで
他のチームたちが到着。やれやれである。

さて、肝心のディベート。
本大会のルールでは3つの議題が提示され、
その中から一つを対戦相手と選択することになっている。
が、この準備大会の最初の2試合は1議題制でやることになった。
ちなみにこの準備大会の名称は、Pre-Australs ESL Invitational。
Free Debate Instituteという団体が主催。
この団体、文句なしの豪華面子をメンバーとしている。
なので準備大会の癖に審査員は超世界大会本戦級である。
いいんだろうか・・・。

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第一試合:
 
平和チーム 対 インドネシア
夢チーム 対 韓国

論題は「We should allow surrogacy for profit」
和訳すると「営利目的の代理母出産を認める」といったところか。

正直古典の初心者向け論題である。
一瞬幼稚園児扱いされたような憮然とした表情を浮かべてしまった。

さて、この大会のユニークなところはコーチの存在である。
各チームに世界大会決勝戦級の選手がコーチとしてつくことになっている。
通常3人1チームのところ、コーチも含めて4人。
リプライ・スピーチ(最終答弁)も含めて4回のスピーチを一つずつ担当する。
コーチにどのスピーチをさせるかは各チームの自由である。
但し、翌日の第四試合と決勝戦だけはコーチはスピーチできない。
夢チームのスピーカ・オーダは、ヒメ・キティ・私の順がデフォルトだった。
豪亜大会のフォーマットが始めてなキティには肩慣らしをしてもらうべく、
このPre-Australs1試合目はヒメ・ソネレック氏・私と話し、最終弁論をキティとした。
対する韓国チームは帰国子女ばかりのチームで語学のハンデはあまりない。
但し所属ディベート団体自体が比較的若く、彼らもディベート歴はあまり長くない。
流暢で美しい韓国と、海千山千の技巧をかけた夢チームの闘い
・・・となる筈であった。

論題発表後の準備時間は30分。
割り当てられた部屋に移動し、大急ぎで作戦会議を行う。
ソネレック氏は既に弾丸のように話し始めている。
つくづく頭のスタートダッシュが速い人だ。

結局、肯定側である夢チームは、
「約9ヶ月分の給料である2・3万ドルを代理母に支払う」という提案をまとめた。
提案理由は3点。
①女性の身体自決権(Bodily Autonomy)と代理母にとってのメリット
②不妊カップルにとってのメリット
③女性のライフスタイルの解放

分担は、①をヒメ担当、②と③をソネレック氏担当とした。
①や③についての話の掘り下げ方は、さすがソネレック・マジック。脱帽。
なるほどねー。そうやって話を具体化したり重要性を説明するのかぁ・・・。
自力でできるようになりたいなぁ。

内容はともかく、この時点で準備時間の使い方に大きな問題が発生。
ソネレック氏がくれる情報量が自分の処理能力よりも多すぎる。
ついて行くのに精一杯で準備時間終了時のノートがまっさら。
正にタブラ・ラサ。のおおおおおお。そして容赦なく試合は始まる。

蓋を開けてみると・・・・・・
あれ?ヒメが話してるのBodily Autonomyの話じゃなくね??
どっちかって言うとソネレック氏が話すはずだった部分に食い込んでるぞ?
とか思ったらソネレック氏と視線が合った。
どうする?と目で尋ねると、サクッと「その議論は捨てよう」という返事。
思い切りが良いなぁー・・・

私自身のスピーチは、内容はまあまあ。特に問題ないがパッともせず。
それよりも何よりもマナーに覇気がなく、構成がダメダメ。ぬああああ。
チーム全体としては、なんだかバラバラな印象。
打合せと分担が違ったり、お互いに矛盾しあう表現が入ったり。うぬう。

この試合はそれでも結局夢チームの勝ち。
イマイチ不完全燃焼ながらとりあえず勝ちは勝ち、と深い息を吐く夢チーム。
というのもソネレック氏は負けず嫌いなのだ。
そんな我々の胸中を知ってか知らずか、
ソネレック氏はすぐに隣の部屋に夢チームを誘導。
反省会である。この勤勉さが素敵。
気分は「先生、どこまでもついていきます」なスポコン的マゾ。

(羊の道物語 第二話 おわり)
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羊の道物語 第一話 Road of the Sheep Vol.1

帰国してからバタバタしていて随分経ってしまいました。
ここの更新も随分久々。
忘れる前に色々時系列順にメモろうと思います。

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あらすじ

世界大会の次に競争が厳しいと言われる豪亜大会。
試験日程の関係もあり日本の大学には敷居が少々高め。
日本からは二つの大学が一チームずつ送ることとなった。
両チーム合同で直前特訓を受けるべく2日間早く現地入り。
そこはロード・オブ・ザ・リングのロケ地となった某国。
人間よりも羊の方が多く居住していることでも有名である。
首都とは思えない小さな都市で、
K大チームをソネレック氏が、I大チームをピエトロパウリ氏が、
直前の練習の専属コーチとして待ち受けた。
(各コーチの和名から、ここではK大チームを「夢チーム」、
I大チームを「平和チーム」という恥ずかしい渾名で呼ぶこととする。)

言葉の壁やメディアの壁に阻まれながら、
前人未到の道なき道を掻き分けて進む羊のような日本選手たち。
このお話は、そんな彼らの通った獣道、羊の道をたどるルポ・・・ということで。

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主な登場人物(日本人は渾名です。わかる人にはわかるだろうけど)

ピエトロパウリ氏: 和名、瑠知安。平和チームのコーチ。MUDチームの選手でもある。
トモ: 平和チームの黒一点。
キャン: 平和チームのおキャンな元気キャラ。 
ママ: 平和チームの癒し系キャラ。

ソネレック氏: 和名、帝夢。夢チームのコーチ。MADチームの審査員でもある。
ヒメ: 夢チームの楽観キャラ。渾名は姫様のような振る舞いから。
キティ: 夢チームの根性キャラ。出発2日前にピンチヒッターに入ったツワモノ。
私: 夢チームのババキャラ。ヒメとキティを合わせて「うちのジョージョー」と呼ぶ。

リンチ氏: ソネレック氏の恋人。MUDの選手。
ディロン氏: インドネシアチームのコーチ。MADの選手でもある。
レイン氏: 本大会の副審査委員長であり、準備大会の主催者。
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6月30日、午後到着。

空港で即効MMUのチームと鉢合わせる。
今回は若い衆しかおらんのだなと思ったら、ラジェンドラ氏はまだ機上、
バラビジェンドラン氏はあそこだと指差す。
空港の床に転がる足だけが見える。
・・・・・・ローガン・・・・・・床で寝んなよ・・・。
とりあえず挨拶を交わしているところに、これまた審査委員長のモア氏登場。
副審査委員長のレイン氏を待ってるんだって。
なんか眠くて頭が回らないのでヘンテコリンな挨拶をして辞す。

我々6人はとりあえずバンでホテルへ。
訛りの強い運転手のおっちゃんは、明日から日本の高校生のガイドだと言う。
小さな港町に着いた。どうやらこれが首都らしい。いやはやびっくり。
薄暗くなりつつある空を見上げつつホテルチェックイン。
便利そうなロケーションに一安心したがこれには落とし穴がある。
それはまた後で。

とりあえず一部屋に6人集まってみる。
主催側のお気楽なマネージにより、
明日からの訓練の集合時間はおろか集合場所も知らされていない。
どうせこのホテルに皆泊まってるんでしょ、と思ったらどうやらそうではないらしい。
誰か情報を持っていそうな人からブリーフィングを受けないことには
にっちもさっちも行かない状況である。

「着いたら連絡しあおう」と約束していたピエトロパウリ氏に電話。
つながらじ。
仕方ないので氏の泊まるホテルにも電話。
おらじ。
何処で遊んでるの、ルシア。

仕方ない、とりあえず夕飯を食べよう、と出かける。
が・・・、何もない!!!
レストランは、パブは一体どこだ!!??
何故金曜日の18:30に何処の店も閉まっているのだ??

散々歩いて漸く見つけたのは中華の店。
入ってみると8.5ニュージーランドドルのディナセットがあるなど、
リーズナブルなお値段。味もなかなか。
幸せいっぱいの私たちは「いざとなったらここに来ることにしよう」と決める。
まさかこの時はこの中華料理店に毎日通いつめることになろうとは知らない。

食事中にソネレック氏から電話をもらう。
総出で一緒に飲みに行くことに。
優しいことにリンチ氏と2人でホテルまで迎えに来てくれると言う。

約束の時間20:00の5分前にノックの音。再会の抱擁。
恒例のチューハイをお中元に渡す。
ヒメと私は何度も面識があるのでリラックスしているが、
他の日本勢はちょっと緊張しているようだ。
・・・と思ったらピエトロパウリ氏からSMS。
こちらも一緒に飲みに行こうと言ってくださっておる。
しかしどうやら同じパブのことみたいだぞ。なーんだ。
じゃ、行こう行こうということになる。

リンチ氏の先導でパブに向かうと、
そこにはMUDやMAD、MMU、そして主催大学の人たちがゾロゾロ。
皆さん既に出来上がっていらっしゃる。
まだ早いだろ、と心の中で大きく突っ込む。
無事ピエトロパウリ氏やディロン氏、レイン氏とも再会。
嗚呼会えて嬉しい。たった半年なのに随分長いこと会えなかったみたいだ。

飲み始めてすぐ、ソネレック氏が「あそこに座ろう」と日本勢を誘う。
彼を囲んで座って、準備大会・本大会の下情報をブリーフィングされる。
最初は酒の席のたわいもない話がメインだったのだが、
すぐに試合準備の打合せに入る。まことソネレック氏らしい。

一番時間を割いて話したのはWTOの過程差別禁止条項について。
WTOには、製造過程の違いを理由に関税障壁を設けてはならないという原則がある。
「Product Not Process」を基準にする、というものだ。
これは自由貿易促進には良いことだが、
環境問題や労働条件の低下に対抗するためにはしばしば問題となる。
ソネレック氏は、夢チームの選手やたまたま居合わせたMUDチームの若い選手に、
何故環境・労働問題に悪影響なのかを説明するよう執拗に要求した。
一度説明を聞くとキーワードを提示し、より解り易く簡潔にするためのヒントをくれる。
そしてもう一度説明するよう要求するのだ。
酒場でビールを飲みながらまだスピ練させる。
この生真面目さがソネレック氏の持ち味であり、可笑しくも愛らしいディベキチぶりだ。
言葉の壁のためシャープな表現をし損なう傾向がある日本チームにとっては
これほど有難いことはない。無二のコーチだ。

私は延々とソネレック氏のディベート談義に耳を傾け、
その場でスピーチ練習までおっぱじめ、その合間に旧友達と乾杯し・・・
というのを続けていたわけだが、
平和チームの面々はどうやらフライトの疲れが残っていたらしく、
早めにホテルへ帰っていった。
ジョージョーたちもしばらくするとそわそわし始めた。
そこへディロン氏の一言。「宿で飲みなおそうぜー」

ていうかあんたの宿どこ?と思わないでもなかったが、
どうやらそこが明日の朝の集合場所らしいので行かないことには大弱りだ。
仕方ないな、じゃあ付き合うか、と思ったら日本勢は総勢引き上げ。
私一人になってしまった。やれやれ、いつも通りな展開だ。

ピエトロパウリ氏とジョージョーを送りがてら一旦私たちのホテルまで歩いた。
ついでにお土産に持ってきた日本酒を二次会に差し入れようということになった。
今回持参したお土産は、ソネレック氏にチューハイ6本、ピエトロパウリ氏に塗りの三段重に入ったお菓子、ディロン氏と主催大学にそれぞれ日本酒一本ずつである。一応個々人の好みに対応した形にしたつもりである。主催大学の分はその場にいたモア氏に手渡したところ、なんだかとっても喜んでくれて持って来てよかったなぁと思わされた。これは後日改めて持って来て本当に良かったと思わされるシーンがあった。

着いてみると、どうやらホテルのラウンジは飲酒厳禁らしく、皆は飲まずに酔う二次会に興じていた。こんなことならもう一・二杯飲んでからパブを出るのだったと思ったが後の祭りだった。

皆アルコールもなしに飲み会ゲームをしている。
たとえば「ネバー・エバー」という古典的なゲームは、丸く座って順番に
「私は今まで一度も○○したことがない」と言う。
座中の人で○○したことがある人は飲まなければいけない。
誰も○○したことのある人がいなければ、言った本人が飲まなければならない。
そういう単純なゲームである。
しかしまあ若い人間の集まる飲みゲームの常で、どうしても下品な方向に行きがちである。
例えば「私は今まで一度もアンジーの彼と寝たことがない」なんぞというのは、
座中の特定の人間をターゲットとしたもので、こういうのがアンジーのいる場で言われるのだ。
しかも誰が飲むことになるのかは皆知っている・・・(汗)エグ過ぎないですかね・・・
ていうか私はこの手のゲームが苦手で、早くもギブな気分でした。ギブ、ギブギブ。勘弁して。

素面で参加するにはテンションが高めな集まりだった上、長かったフライトの疲労がたまっていたので、お喋りやゲームの騒ぎが一心地ついたところで早めに引き上げた。とても治安が良い街とは聞いていたが、女の夜中の一人歩きはやはり恐いものなので、できるだけ明るい道を携帯を握り締めて自分のホテルまで歩いた。

歩きながら色々思った。
翌日からのこと、本大会のこと、
直前にメンバー入れ替えのあった夢チームのコンディションのこと、
これからの自分のディベートとのかかわりのこと、
出国直前に慌しく出してきた原稿のこと、
そしてこれまでのこと、これまでのこと、これまでのこと。

考えても仕方ない。
早く試合がしてみたい。

そう夜空を見上げて思った。

(羊の道物語 第一話 おわり)
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Saturday, July 01, 2006

羊の国からこんにちは

人の数より羊の数が多いらしいニュージーランド2日目です。
まだ羊を目にしていません。

今日は大会前の肩慣らしの「準備大会」で2試合しました。
自分自身の仕上がりはともかく毎回学ぶ事は色々あります。

試合の後で、各国の情勢を報告するセッションがあって、それが最高に楽しかったです。
今日報告したのはニュージーランド、オーストラリア、インドネシア、韓国、日本の5カ国。
ニュージーランドのマウイ族に対する少数者優遇措置についてや、インドネシアの選挙の話、オーストラリアの薬品業界の話や西パプアからの亡命者の話。米韓FTAの話や日本の自民党総裁選挙の話などなど・・・質問も交えて色々情報が行きかいました。こういうのが一番面白いです。
やっぱりメディアに報道されていることって限りがあるなぁとしみじみ思いました。