Thursday, March 15, 2012

今春ディベート雑感徒然

JDA春期日本語ディベート大会の決勝戦を観戦してきましたー☆面白かったです。
決勝戦常連さんの肯定側に対して名古屋からニューフェイス参戦のフレッシュな否定側でした。そのニューフェイスの可愛らしい女性のネガブロックが秀逸でした!凄い!これからが楽しみです。また是非試合に出て貰いたいです。
結果は、私が審査員なら肯定側だなぁ。。。と思っていたところ。。。
予想通り肯定側でした。
あくまでも私の感想ですが、否定側のネガブロックにアファリバはほぼ全く返せていないんですよね。ただ、そもそもネガブロックがそのまま残っても良く考えると試合の大勢は影響を受けない、、、という、肯定側のケース作り勝ちだったと思います。
丁度昨年秋のJDA決勝で否定側だった自分のチームが、試合中の自分の凡ミスもあったものの、やはり準備の段階で否定側の勝ち方を決め切れずにいたのが敗因だと感じたのと少しダブりました。
やはり中・上級者の試合(超上級者になるとまた逆の印象ですが)では試合前に試合の大勢が決まるんだなぁと再確認しました。
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東工大杯の決勝もなかなか面白かったです。この試合は自分自身が否定側だったんですが、対戦相手が一度やってみたいなと思ったN君のチームでした。というのは、以前にやはりN君が肯定側の決勝戦(アラブの春における草の根メディアについての一戦)を観たことがあったんですが、ちょっと特殊で自分たちに有利な文脈に落とし込む1A、試合のフレーミングが上手なんです。私は普段そういう捻り技があまり好きではないのですが、その試合では妙に魅力的なスピーチになっていたので一度対戦してみたいなぁと思った覚えがあります。
で、結論としてやはり捻り技には捻り技特有のメリット・デメリットがあり、総合的には王道なアプローチの改変を迫るものではないと感じました。
特殊な文脈に落とし込むディベートは、その文脈と論題にズレがないと対戦相手や審査員が思い込んでくれない限り、文脈の特殊性を指摘し逆を突く一般論を展開されると負けてしまうのではないかと思います。
特に感じた弱みは、一つの事例のストーリーテリングを強みにするあまり、①理由や原理を説明することを怠りがち、②文脈が細かすぎて同じ文脈上にある他の例を見つけにくい、③ストーリーテリングにかなり時間を費やしてしまうので戦略上のリスクヘッジができない、④エンゲージするための武器が1stで全く仕込まれないので2ndに圧倒的な破壊力がないと攻めの姿勢の相手の前では丸腰になる、といった点があると思います。
上記のアラブの春の試合でも、肯定側が特定のタイムフレームにのみフォーカスしたディベートに相手を誘い込もうとしている中、否定側はそれに対抗せずそのまま相手のフィールドに入って試合をしてしまっていたと思います。が、特殊なタイムフレームを取っ払ってしまって冷静に論題を読み返せばかなり否定側有利な論題だったと思います。否定側が気にせず架せられたフレームを壊して攻めの姿勢を貫けば試合後半の展開は大きく違ったかもしれません。
これに対し、所謂王道なアプローチは(観念的)原理原則論と(実際的)事象説明をバランス良く行うというものだと思います。これは定義的に複数の事例を想定する/念頭に置くことになります。原理原則論という大きな武器が手に入るほか、事象説明についても勝負所に後述の釘形事例提出をすることで①補強でき、②論題とのズレを縮めることができるというメリットがあります。
さて、釘形事例提出とは何ぞや、と思われるかもしれませんが、これは私のオリジナルではなくIDC中にTから聞いた表現です。言い得て妙だと思ったのでそのまま私も同じ表現を使っています。大工道具の釘というのは細長い突き刺さる部分と平らな円盤状の留め部分の2パーツから成っています(留めのない唯の針棒だと刺さっても二つの木材を接着することができません。外れてしまいます。)。丁度そんな要領で、一つの例を深く突き刺さるまで説明し、類似事例を2つ位サラッと挙げます。そうすると自分たちの原理原則と事象説明がうまくガッチリと固定されて強い構造になる、ということです。
今回の東工大決勝で言えば、他のプロフィール情報が政党の基盤となっていることを示すために、性別の例で説明した上で宗教や出身地域だって同じだよね、とサラッと言っておくとか。民族が政治アジェンダの基となることがあることを示すために、アパルトヘイトの説明とベルギーのフランドル/ワロンの説明をした上でオランダのフリースランド、アイルランドの独立紛争などをサラサラっと名前だけ挙げておく、といったことです。
勝負所を見分けられることが前提ですが、見分けられるようになればこの釘形のイメージは結構使えます。
これがあまりに一つの事例の文脈を強調してしまうと、同じ文脈の事例はないもしくは汎化の役に立たないので、留めの部分が出せなくなってしまうと思うんですね。例えば、あそこまでケニアの文脈だけを強調してしまうとケニアと同じ文脈の例を複数挙げるのはほぼ不可能か、挙げられたとしても論題の範囲に対して矮小化している印象が強まってしまう。「ケニアについて言えることは他のどの国についても言えることだ」という説明ができない以上、ジャッジさんや対戦相手が「これはケニアについての論題/ディベートだ」と思いこんでくれないと勝ち目が低いだろうということです。
というわけで、私はおそらく今後も授業ではバランス重視のスピーチを練習して貰うだろうと思います。
が、ともすると閉塞感のあるディベート界、皆が皆同じような議論ばかり展開して同じようなアプローチではクサクサしますよね。そういう意味ではああいう癖の強いワイルドなスピーチも面白いな、と思います。実際東工大決勝も9票中2票は肯定側に入っているんですよね。それは我々否定側が不十分だったからと言ってしまえばその通りですが、ああいう肯定側の割り切ったストーリーテリング一本勝負、というのにもまたちょっとした魅力があることを示しているのではないかと思います。
また、こちらのケースもやはりJDAの決勝と同じく、スピーチする前、事前の戦略決めが非常に重要だということでもありますね。
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余談ですが、上述の釘形事例提出は即興制のフォーマットで重視される技だと思います。準備制(日本だとNAFA, NADE, HEnDA系が相当)では一つの勝負どころに複数の事例を充てる時間的余裕はなく、また接着が重要になるほど原理原則論が深くされることが少ないこともあり、最も強いエビ1枚に絞り込むことにかなりの労力を割きます。代わりと言ってはなんですが通称「オンバランス・エビ」が汎化の役割を担うことが多いです。このオンバランスの分析というのはNADEやHEnDAといった高校生が活用していないことが多く、今後それができるチームが出てくると楽しいのではないかと思います。NAFA系大学生からのアドバイスにもエンピやオンバランスをもっと使うと良いということがあったようですね。頑張れ、高校生!
複数の事例を紹介するアプローチと、オンバランスどちらかという統計や理由づけをするアプローチ、どちらの方が優れているか。個人的には特にどちらの方が圧倒的に優れているということはないような気がします。なので、授業では両方のスキルを獲得して貰いたいと思っています。(が、そこまで授業の進度が行くことは非常に非常に稀なので悩むこと自体結構杞憂。残念!「ディベート初級」と「ディベート上級」の二コースに分けられたら上級ではこういうことも扱いたいですね☆)

1 comment:

大たきお said...

全然関係ないコメントですが、すずまささんのパートナーだったT君がKDSらしさを感じさせる成長を遂げていて印象に残りました。