Friday, September 21, 2007

語感 Word Texture

次の予定まで中途半端に手が空いたので,書いてしまおうかなぁ,と思います.

総裁選候補者討論の進行の仕方が米国のに近くなっていてちょっと面白く思いました.比較的質問もストレートだし,返答のほうも安倍さんみたいに暖簾に腕押しまくり気分を味わわず済みました.ただ質問が片方の候補しか答えようのないようなものが続くのは避けて欲しい気がしました.

途中,「世論調査の結果,麻生さんは女性に支持者が少ないようですが,何故だと思われますか」という質問を受けた麻生氏.「いやぁ.モテないってことですかね.そんなの私に聞かれても分かりませんよ」という返事.

・・・それはちょっとビミョー.

私生活の色っぽい話で「モテるモテない」と「政策が女性に評価されるされない」はぜーんぜん違わない??それをまるで同じことみたいにさぁ.女はセックスアピールで政治家選んでるとでも言うのか,ばかやろーーぉ.

なんていうか,「男女共同参画関連のマニフェストを精査したいと思います」とかさぁ,「女性の方に不評な政策をヒアリングして改善したいと思います」とかさぁ,言いようあるでしょ,他に.ていうか70過ぎと60過ぎの爺様たちにモテ度調査だと思われる有権者の清き一票って何なのよ.

ま,それはおいて置いて...

「思想は言葉に宿るから」と書いてくれたのはmasashi氏でしたよね.うん,良い表現ですね.ホント,言葉には心が乗りますよね.外国語だと難しいのは,乗せる心と乗り物が合っているのか確証もてないところってありますよね・・・

漱石の「現代日本の開花」って高校で読まされた時,たしか,天狗のように飛び跳ねている日本はそのツケをいつか払わされるのだろう,みたいな部分があって,ピンとこなかったのを覚えています.最近少し分かるような気がしてきます.

さて,

先日のJPDUTの論題について,他の方の書いていることもささーっとあちこち読ませて頂きました.具体的にはAsh君,ひさま,manoloさんあたりです.割と共通している部分もあり,個人差の多い部分もありだったようですね.あと山に入った後の論題リストも見ました.

んー,で,結局,一番問題に感じたのはR5のWTOかなぁ・・・
safe(ty)の独特の語感が,日本語と英語で違うのではないかな.

私語源関係はあまり詳しくないのですが,safeとsaveって多分関係の深い語ですよね.
safeにはsaveの語感が付きまとっている気がします.safety-netもsafeguardも,零れたものを掬い上げるイメージがあると思います.アスレチックで高い棒をつたう時に,万が一落ちても最低限の安全が確保されるように下に網が張ってあったりするの,ああいうの,セーフな感じですよね.

このセーフは自由と切り離せない関係にあると思います.

基本的にアスレチックではスリルと冒険を自由にめいっぱい体験することが良しとされます.経済でも極力自由な挑戦・競争が良しとされます.消費社会も基本的には消費者自身の自由な選択に任せるのが良しとされます.

ただ,その自由な選択が,選択した本人を大きく傷つける場合があり,極端な場合には救済措置(safety-net/safeguard)が必要になります.破産手続きや米国産牛肉が輸入制限されたり,EUが遺伝子組み換え食品を拒否したり,フランスや韓国,中国が外国映画の輸入を規制したりするのは,基本的にこうした考えに則っています.バッド・チョイスの場合も死なないようにしてくれるためのものです.自国民各人の自由な判断に任せると,国民に大きな危害を生む可能性があるために,最低限の安全を確保するため自由を国が制限することになります.アスレチックから墜落して死ぬ自由や死のリスクを現実に感じてゲームする自由は制限されています.これが基本的にsafeguardの概念だと思います.

然るに,動物虐待を伴ってできた商品(化粧品だか薬品だかムームーだかなんだか知りませんが)自国民・自国産業・自国文化にデトリメンタルである可能性を立証できなければ,WTOはsafeguardの発動を認められないわけです.

最近なんでも貿易といえばWTOを守護にしたMotionにしてしまいがちに見えますが,それはちょっと困ったことです.WTOは魔法のランプではありませんし,何よりWTO独自の方針とか政策とかは基本的にないはずです.どっちかって言うと裁判所みたいな機構だと思った方が良いでしょう.ですので,WTOが動物虐待を伴ってできた商品を締め出すべき,みたいな決定は行いません.加盟国の何処かがした場合,WTOはそれがルールに則っているかどうか裁定する場所です.

safeguardの場合は,加盟国が「この商品を輸入するとうちの国民がこういう危険性に晒されるからうちは輸入できんわ」と証明すると,そのsafeguardをとってもルール違反とは看做されないわけです.

safeguardがそういう仕組みだから,ケアできない問題があるわけです.safeguardは輸入国の安全は守れますが,生産国の問題には対処できないのです.だからfair tradeという動きがあるのだし,product not processの原則が時に批判されるわけです.生産国側の悪行(劣悪な労働環境,環境に悪い生産方法,動物虐待も含めた倫理上の問題などなど)は,大変重要な問題ですが,safeguardという「消費者のバッドチョイスによって消費者自身を危険に晒してしまうことから守る」システムとは関係ないのです.

なので,「そのsafeguardを動物虐待のケースに当てはめればよいだろ」というわけにはいきません.全然別物です.生産者の悪行へのおしおきは,何らかの形でWTOがfair tradeにシフトすれば可能かもしれないけど,safeguardのシステムとは全く別のものです.

今回の論題は,
- WTOがsafeguardを使うことはない(あくまでも加盟国が使う)のだが,論題はWTOが主語
- safeguardは輸入国のドメスティックな被害を根拠に設定されるものなのだが,論題は動物虐待という生産国側の問題が対象
- WTOにはproduct but not processの原則があり,現行のsafeguardもprocessの部分には立ち入らないことになっている(遺伝子組み換え食品のときに同一のproductかどうか散々論争になったとおり)が,論題はprocessに関するもの
というようなわけで,やはりどう考えてもsafeguardというwordingは選手にも審査員にも論題を意味不明にしていたと思います.

動物虐待を伴って生産された商品を締め出すディベートがしたければ,論題はfair tradeに関するwordingが望ましかったでしょう.

WTOを魔法の小槌のように扱う最近の傾向全体の問題なのかもしれないけれど,国際大会でも良く出てくる機関なので正確に理解して,来る世界大会でも良い議論を展開してもらいたいと思います.

4 comments:

Anonymous said...

IDC7でお世話になったかずくんです。お久しぶりです。

僕は夏JPDUに参加してませんし、詳しいことは分からないのですが、5THラウンドは「イルカ・マグロ論争」の事を言っているのかもと思いました。

仰るとおり、WTOは産品そのものの危険性が自国民に悪影響を及ぼす可能性のある産品のみの輸入制限措置のみを認めています。

しかし、エコラベルにおいては、産品に関連しない生産工程・生産方法(産品非関連PPM)に関するエコラベルが増えているのは事実です。現状では、エコラベルの認定機関が民間ならOKで、国ならNGという、なんじゃらほいという結論をWTOが下していて(TBT協定とかに関連する話?)、その是非に関する議論は活発に行われています。

混穫漁業や森林伐採を動物虐待と解釈すれば、そのモーションもありうるかなーと思うんですが、いったい誰がこんなマニアックなモーション作ったのか知りたいです。そして、僕はその人と友達になりたいです(笑)

最近、コレ関連で熱いトピックは、もちろんMarine Stewardship Councilですが、僕はそれの日本発の認証機関であるアミタの方にインタビューをしたのですが、やっぱりMSCは面白いなと思いました。環境問題への新しいアプローチ(民間ベースのエコラベル)として注目しています。

長文、すいませんでした。ナンセンスな話だったら、すいません。

go said...

カズ君,ひさしぶりー!!元気?コメントありがとう!カズ君はこういうのに興味があるんだね!是非色々教えてください.

ところで,Round5の精確な論題は,THBT the WTO should allow the use of safeguards to prevent cruelty toward animals.だったようです.訂正です.ごめんなさい.なのでWTOが主語になってる云々のところは的外れでした.ごめーん!

さて,イルカと鯨については審査員室でも話題になったの.杜を打ち込むのがcruelだという批判がよくされますので.マグロの話にはならなかったんだけどね.論題があくまでcrueltyだったので.マグロ漁の制限が論題出たらやってみたいけどサイド間の不均衡をどうやって解決するかwordingは難しそうだね.

エコラベルは面白いね!でも確かエコラベルの条件に「関税障壁にならないこと」っていうのも含まれていなかったっけ?よく分からないけど,国が認定機関じゃWTO的に駄目なのはそういう理由ではないの?

同じ理由からエコラベルはsafeguardとは関係ないと思うよ?え?関係あるの??

MSCにしてもエコラベルにしても,やっぱりfair trade関連は手探り感がいっぱいで論題候補として良いと思うー。free trade方面は最近膠着気味で面白くない気がします.

カズ君が世界大会のCAやDCAなら,どんな論題でディベートして貰いたい?

ひさま said...

ま、私が出したんですけど。

>safeguardがそういう仕組みだから,ケアできない問題があるわけです.
>だから(中略),product not processの原則が時に批判されるわけです.
これはその通りだと思うというか、出題者の問題意識なのですけども

>なので,「そのsafeguardを動物虐待のケースに当てはめればよいだろ」というわけにはいきません.全然別物です.生産者の悪行へのおしおきは,何らかの形でWTOがfair tradeにシフトすれば可能かもしれないけど,safeguardのシステムとは全く別のものです.
現状で別物なのはわかるのですけど、「別物とされている制度に問題があるのだから、WTO(のパネル)はそのsafeguardの制度を動物虐待のケースに当てはめられるよう組み替えるべき」というわけにはいかないのですかね。それをもって「fair tradeへのシフト(まあそんな大げさなものではないですが)」とすることも。

product but not processの問題に関しても、強制労働なんかは少なくとも規約の上では反対されているわけで、そこまで絶対的なものではないのでは。また、かずくんが言っている「イルカ・マグロ論争」というのは、どこだったか特定の海域でなんか特定の漁法でマグロを取ると、そこら辺を泳いでいるイルカが捕まって溺死したり、逃がすのが手間だからついでに殺されてしまう、という問題に関するものですよね。これと類似の紛争であるエビ・ウミガメ事件にかんしては、WTO上級パネルは加盟国がそうして獲られたエビを締め出すという政策に対して割と肯定的な評価をしていたと思います(あれ判決出てたっけ)。まあ私が追えている限りでほとんど唯一の例なんですけど。

>WTOを魔法の小槌のように扱う最近の傾向全体の問題
どちらかというと、現実の国際経済においてWTOが魔法の小槌として利用されているのではないかと。それにちょっと関係して、WTOは「動物虐待を伴ってできた商品を締め出すべき,みたいな決定は行いません」が、「締め出してはいけない」という決定はおこなってくるわけですよね。EUなんかが動物虐待なんかに関して規制(動物実験で作られた化粧品・医薬品やトラバサミで捕まえられた動物の毛皮とか)をしようとするとWTOへの提訴を盾に政策の撤回を迫られる、ということもありますし。なのでまあ、プランの働く/働かないを考えると主語はWTOにならざるを得ないと思うのですけど。

go said...

ひー君,

processにおける問題への対策は,カズ君が書いているようなWTOの枠にはまらないアプローチがメジャだと思います.WTOは基本free tradeを促進する機関だということは変わっていません.後に論題の明示性について書きますが,マイナなアプローチを分かりにくい文言で議論させるのは悪い論題だと思います.

もし仮に選手たちが準備時間の5分強,PMスピーチの2分をかけてひー君の言うような解釈を捏ね繰り出せたとしても,

1. ひー君の言うようにWTOが動物虐待に対抗措置をとることにしても,それは『safeguard』という概念にやはり合わない
2. この論題の条件を満たすためにはsafeguardを物凄く拡大解釈・曲解しなければならない
3. 曲解しなければならない論題,読んでピンとこない論題はすべて悪い論題である

ので,申し訳ないけどやっぱりこの論題は悪い論題だったと思う.この論題は読んでピンと来ないと思うよ.

国際大会がclosed motionに急激に移行してきたのも,解釈の仕方が二通りある論題が良くないとされるようになったのも,比喩や間接的な表現を排除するようになってきたのも,すべて同じ理由からです.

一目読んで何を議論させたいのかわからない論題は悪い論題です.頓智クイズをディベーターに与えたところでつまらないラウンド以上の何も得ることができません.沢山のクラッシュ不明な屑ラウンドが生産されるだけです.

ちなみに,『controversialであること(= 時事性+深刻性)』が良いdebateをするための前提条件であることもこの「明示性」に関連しています.もともと時事性が明示性よりも更に重視される最重要基準でした.これはdefチャレンジの条件を見ても明確ですし,IDC3のcase settingに関する全体レクチャーでルークによって最も重点を置いて説明された点です.ローガンも「当日の新聞に載っていることに論題を挿げ替える準備はいつもしている」と公言するのは,それほど時事性がdebateという活動にとって重要だからです.最もHotで最もcontroversialな問題を議論してこそ,集団で議論して意思決定をする意味があります.

かつてオープン論題が許されたのは,時事性に鑑みればspirit of motionが『明解だった』ためです.たとえTHW stop wasting money on starsと言われても何を議論させたいのか一目見れば分かった.しかし,国際大会の参加者の多様化に伴い,オープンなままでは『最も時宜に適った解釈』に幅が出てしまうようになりました.だから,主催者側が最も時宜に適った解釈をそもそも論題に明示する(=closed motionに移行する)ことになったわけです.比喩の楽しさよりも時事性や明示性が優先するからこそ,closed motionへの移行が起きているんです.

それから,「何がホットなのコンテストではない」というのは,論題は選手や審査員のためにあるのであって主催者のためにあるのではない,という意味です.主催者をコンテストするためにディベートがあるのではありません.

また,時事性のみを重視してピックアップすると,サイド間の均衡が取れないものや,社会的深刻性の薄いものが選ばれたり,特定の地域に偏ったライン・アップになったり,社会的深刻なのにアンダー・リプリゼントされている話題が論題になりにくかったりすることがあります.その場合はバランスを取るように調整することもあります.

そうした趣旨で言われ始めた「何がホットなのコンテストではない」という台詞を,主催者が時事性を無視する口実にしてはいけません.この台詞はむしろ時事性はあくまでも最重要基準であることを示しているはずです.

例えば今年の豪亜大会の決勝戦は,時事性は高くありませんでしたがアンダーリプリゼントされているコミュニティに光を当てるため,という明確な目的があって選ばれた論題でした.そのため表彰式には障害者コミュニティの代表が参加するなどの試みもタイアップされました.しかしそれでも,時事性があまりに低かったことやサイド間の均衡に難があったと感じた人が多かったこと,表彰式の企画が先にありきだったのではないかとの疑念から批判を大きく受けました.

「ポプラとカエデ」に書いたとおり,Tが「何がホットなのコンテストではない」という台詞で他のCA・DCA達から北朝鮮論題を却下され,私への逃げ口上にも使ったことがあります.しかしあれは明確に主催者側の誤りです.

当時時事性抜群だった北朝鮮を退けてミャンマーを推すには,上に書いたような理由(サイド間不均衡,社会性深刻性の欠如,地域的偏りなど)が必要ですが,彼はそれを一つとして挙げられなかった.あの時も結局,Tはその台詞を本来の趣旨に反する形で悪用したことを認めてくれました.今年の豪亜大会では,謝罪してくれた時の約束を守ってくれました.私としては不満の残る選択でしたが,それでも彼が間違いを認めてくれたことに意味があると思います.今後,その逃げ口上を乱用・悪用する人を減らしたことになるからです.Tは善意に溢れた人なので,この話はどれだけ彼がカナダで難しい立場に置かれていたのかということでもあります.

そういうわけで,時事性やspirit of motionの明確さは真っ先に優先されるべきことです.round5の論題は後者が著しく欠けていたと思います.意味不明な論題は出してはいけません.