Thursday, September 25, 2008

Extra-Topical 秋JPDU決勝

しばらく体調が思わしくなく今月はやれやれな感じですが、
なんとか持ち直したので書き物を……しているのですが、ちょっと行き詰まり気味。
ああ、頭が停滞しているーーー。

というわけで気分転換に寸評など。
(フェミノロジーシリーズはまた今度書きます。のろくてすみません。けど、あれは書くのに頭を使うので、頭を使わずに短時間でできる気分転換にはなりにくいんだもん)

秋JPDUの決勝戦でのExtra-Topicalなケースについて。

本人たちが長い説明を読みたいと思うか解らなかったのと、ディベートについての基本的な解説をReason for Decisionに書くのもどうかと思ったので、ただ一言「ケースがExtra-Topicalだった」とだけ書きました。コメント・シートはディベートのテキストではないからそのラウンドに固有なこと書きたいですよね、やっぱり、できれば。しかし不親切極まりなかったと反省もしているのでこんなところに書いてみます。

あ、ICUの人誰かこれ読んだらファイナリストに「ここに書いておくんで気が向いたら読んで下さい」とお伝えください。

これを読む方で、JDA/NAFA/NDT系統のディベートをなさる方は、おそらくもう知っている基本的なことの解説なので読む価値がありません。この文章は即興性のディベートを英語で行う人たちに説明するために書かれています。ご放念ください。

[前提1. 根拠には論拠と証拠がある]

ディベートは根拠提出合戦である。
根拠には論拠(Reason)と証拠(Evidence/Example)がある。

この二文は、多くの初心者が最初に聞かされるもの…と思われます。

『から』がつくのが論拠。
『たとえば』がつくのが証拠。

とでも言ったとして、実はこの論拠と証拠の区別はとってもファジー。
ま、その点は今日はおいておきましょう。

[前提2. 論点は、論題を肯定/否定する根拠である]

*『論点』にはメリット/デメリット以外もありますが、ここではメリット/デメリットのみを指して使います。

殆どのディベートにおいて、各議論は論題を肯定/否定する根拠として提示されます。メリットやデメリットを提示するのは、「こんなに良いこと/悪いことが起きる『から』論題の言うとおり!」と言う為です。

例)論題「死刑を廃止するべきである
  論点「死刑を廃止すれば冤罪を晴らす機会が増える」
  目的「『たとえば』冤罪を晴らす機会が増える『から』、死刑を廃止すべきである」

[前提3. 提案(Plan/Proposal/Case)も、論題を肯定/否定する根拠である]

えー、ここは議論が残るところなのですが、多くの人が、肯定側/否定側が論題をより具体的にした提案に議論を絞るのは論題を肯定/否定する方便である、と考えています。

例)論題「代替エネルギーに切り替えるべきである」
  提案「洋上風力発電に切り替えるべきである」
  論点「『たとえば』洋上風力発電に切り替えるべきである『から』、代替エネルギーに切り替えるべきである」  

[前提4. 提案には条件(Condition/Spike Plan)を付すことができる]

提案が現実に採択されるために必要だと思われる条件で、明示した方がそのディベートの争点を本質的なものにできると思われる場合(要するに、本質的でないデメリットをそのディベートから排除するために)、提案者(肯定側/否定側)は条件を付します。

例)論題「売春を合法化するべきである」
  提案「成人による同意の上での売春を合法化するべきである」
  条件「風俗業就労者全員に定期的なSTD感染テストを義務付ける」
  除外される否定側論点「STDが社会に蔓延する」

[前提5.論点は条件部分から発生してはならない]

ここが今日の重要ポイントです。

『Extra-Topical』とは条件部分や条件部分から発生する論点(メリット/デメリット)を表現する言葉です。「ケースがextra-topicalだ」というのは、「論点(メリット/デメリット)が条件部分から発生している」という意味です。

論点が条件部分から発生していた場合(=ケースがextra-topicalな場合)、その論点は条件部分を肯定/否定する根拠にはなっても、提案自体を肯定/否定する根拠になりません。条件部分を単独で採択すれば発生するのであって、論題の採択とは関係がないからです。

例)論題「売春を合法化するべきである」
  提案「成人による同意の上での売春を合法化するべきである」
  条件「風俗業就労者全員に定期的なSTD感染テストを義務付け、テストと診療を行う産婦人科医の給料を上げる」
  Topicalな論点「職業選択の幅が広がる」「労働法の適用を受ける」
  Extra-Topicalな論点「産婦人科医が増えてお産が安全になる」

この場合、産婦人科医が足りないのが問題で、給料を上げれば産婦人科医が増えるのであれば、売春の合法化とは関係なく産婦人科医の給料を上げれば良いわけです。なので、どんなに産婦人科医が増えるという論点を説明しても、売春を合法化する根拠にはなりません。

つまり……

Extra-Topicalなケースを出してはいけません。

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というわけで秋JPDUの決勝戦ですが、

論題「農産物の輸出障壁をなくすべきである」
肯定側がした提案「農産物の輸出障壁をすべてなくすべきである」
肯定側が加えた条件「農産物の輸入障壁もすべて一緒になくす。安全基準に抵触する場合は例外とする」

肯定側が出した論点「日本の農家は保護されすぎている。(輸入制限がなくなれば)日本人は米を安く食べられる」「稲作農家への補助金(=輸入障壁)をなくせば税金の無駄遣いが減る」
否定側が出した論点「日本に大量の外米が流入し日本の稲作農家が破産する」

という展開でした。

上記の肯定側・否定側両方の論点が輸入障壁の解消から発生しておりExtra-Topicalです。
つまり……試合で話されたことの『ほぼ』全てがExtra-Topicalです。論題と関係ありません。

『ほぼ』をつけたのは、否定側が以下の2点について、それぞれ約1分ずつ(しかも半分は規定スピーチ時間ぎりぎりで半分は時間切れ後)触れたためです。
(1) 輸出国の農家が飢餓輸出する(LO)
(2) 農作物が大量供給されてタダ同然になり、国際的な増産努力が弱まる(MO)

まず両方とも輸出障壁解消の影響を議論しているのでTopicalです。その点はよろしい。

しかし、(1)は、妥当な話だと思いましたが、8分のスピーチなのに7分30秒あたりから話されてもですね…。折角肯定側の論点がExtra-Topicalだと判っていて指摘までしたのに、なんで7分輸入障壁(条件部分)について話して輸出障壁(論題部分)については1分(しかも30秒以上時間切れ後)しか話さないの???

そして(2)は……んなわけあるかっつーの!!!!!てゆうかタダ同然になるほど、世界中を食べ物で溢れかえらせるほど大量に生産されているならそもそも飢餓輸出にならないでしょ!輸出制限もそしたら存在しないじゃん。そしてそもそも国際的な増産努力も要らないじゃん(まあ、将来増産が必要になる系の話ではありましたが、その場合今度はLOの「今後オーストラリアの渇水が改善して供給量は自然と増える」というこれまた「ウソつけよ!!」と言いたい謎の議論と矛盾しています)

(2)は、ほぼ自殺点と言って良い感じだったわけですが……しかし肯定側が輸出障壁について全く議論してくれていない以上、たとえ30秒でも(1)について話してくれた否定側に票を入れるしかない、というのが私の審査内容でした。

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さて、「一体どこの国が農作物の輸出障壁を設けているの?(=Topicalなproposalが有り得るの?)」という疑問が生まれるかもしれません。これについてはジャッジング・ルームでも話題になりました。

論題が提示された時に私が最初に口にした感想も「輸入じゃなくて輸出なの?だけど兵器じゃなくて農作物なの?どっか飢餓輸出しているの?」というものでした。それに対し「インドではないか」という指摘が某成蹊卒のジャッジからありました。インドは現在高いインフレ率に苦しんでいるので、信憑性のある話だと思いました。

で、調べてみました。

以下の通りだそうです。
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=23790359

まあ、これを知らなかったとしても、ですね、それでもExtra-Topicalなケースを出す言い訳にはなりませんけれどね。

食べ物の輸出を制限する理由といったら、「国内の食べ物が減って困るから」というのを思いつくのが自然だと思います。食べ物が減って困る理由としては「国内の人が食べる分までなくなる」を思いつくのが自然だと思います。そうすると輸出制限をかけそうな国は、発展途上国(国際価格より国内価格が安い)というところまではわかります。そこまで解れば、たとえ具体例が思いつかなくても論点自体は作れたと思われます。

まあ確かに普段の勉強量が求められる論題だったし、審査員たる私も不勉強だったので申し訳なくは思うけれども、こういう論題はどんどんやってみるべきなんじゃないかと思いました。学生が勉強することを促進するし、論題をきちんと読んでディベートするという基本的な能力も養われますしね。

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とにかく、ディベータのみなさん、

1. 論題は読みましょう
2. 論題について議論しましょう

2 comments:

Anonymous said...

なんか調べたらいっぱい国ありましたね。

ウクライナ
ロシア
カザフスタン
中国
セルビア
パキスタン
ブラジル
インド
エジプト
ベトナム
カンボジア
インドネシア
アルゼンチン

BRICsが全部入ってる。。。
国際系の農業問題は、やっぱ貧困層問題なんですね。EUの補助金も国際価格への影響議論出ますし。
それに比べると国内の農業系論題になると急に規模が小さくなる気がします。まぁそもそも自給自足できてない国ですからしょうがないんでしょうが。
しかもさりげなく農水省が提案してますけど
http://www.maff.go.jp/j/press/kokusai/kousyo/080501.html
輸入させんなといいつつ輸出しろという、国内向けの顔と海外向けの顔がわかりすくなんとも言えません。

go said...

> 大たっきー

そんなにあるんだぁー……
まあディベートに出す例として全部相応しいかというと制限の度合いと範囲にもよるかもしれませんが。

重要なのは『いつから』ある制限かですよね。インドのように国際食料価格の高騰が原因で最近制限を加えた国に関して話すのと、何らかの理由から特定の農産物の流出制限を常時かけている国(あるのか知らないけど)について話すのでは随分論点が変わりますよね。基本的には前者について話すのがケースとしては求められている形なんでしょうな。

うん、農業政策は貧困や格差対策としての側面が重要だよね。農地改革も含めると沢山の国が本当に梃子摺っているよね。農地の再配分は凄い高確率で暴動の火種だよね。

今回の論題でも、否定側はやっぱり飢餓輸出の話をするのが素直なんだろうけど、肯定側は「でも国際市場で高く売れば儲かるじゃん。その儲けで購買できるんだから助かるでしょう。」とか「自分が食べる分まで売る理由がわからない」とか言うのかな?

仮に農民達自身が売却量の決定権を握っているのであれば餓死するほど売り払わないかも(老人・女性・子供といった弱者の食い扶持を売り払ってしまうリスクは残るけど)。

同じように、仮に利潤が還元されるのであれば、確かに高く売れるものは売って、自分達は安いものを消費すれば差額が富として貯まりそうだよね。良い循環に入れそう。

しかし大規模農場が多くの小作人を使役しているパターンだった場合、売却量の決定力も利潤の還元も農場主にしかない。農場主は輸出しまくってウハウハだけど大多数の小作人は食べるものに困るかも。(利益を拡大している多国籍企業が末端の労働者に利潤を還元しないことが多いのと同じ?)

そんでもって国内は「金はあれど物はなし」状態になるのでハイパーインフレに突入!みたいな?私は経済音痴、特に金融音痴なのでイマイチ自信ないけど、やっぱり食料価格がインフレ率に与える影響も大きいだろうから、大きく間違えると貧困層だけの問題じゃなくて国の経済全体の問題にもなるんだろうね。こっちだと最悪な循環だよね。

インド今本当に大変みたいね。しかも制限に踏み切る直前までずっと輸出拡大を目指す政策を積極的にとっていたみたいね。日本への農産物輸出をどう拡大するか、っていう記事がずーーーっと続いてて、突然それが真逆の輸出制限に切り替わっているみたい。今回の国際食料価格高騰って本当にいろんな国の長期計画を狂わせているんだろうね。

はてさて最近輸出制限に踏み切っている国々は果たしてどちらなのか。そういうところが争点になる論題だった……のかなぁ?

ちょっと勉強不足で確信が持てないけど、かなり面白そうな論題だと思い始めました。論題エリアとして開拓する価値はありそう。ただ価値観の対立はあまりないね。ピュアにシステム同士の比較と事実関係の確からしさの争いに終始する味気ないディベートになる危険は高いかも?