Saturday, July 15, 2006

羊の道物語 第一話 Road of the Sheep Vol.1

帰国してからバタバタしていて随分経ってしまいました。
ここの更新も随分久々。
忘れる前に色々時系列順にメモろうと思います。

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あらすじ

世界大会の次に競争が厳しいと言われる豪亜大会。
試験日程の関係もあり日本の大学には敷居が少々高め。
日本からは二つの大学が一チームずつ送ることとなった。
両チーム合同で直前特訓を受けるべく2日間早く現地入り。
そこはロード・オブ・ザ・リングのロケ地となった某国。
人間よりも羊の方が多く居住していることでも有名である。
首都とは思えない小さな都市で、
K大チームをソネレック氏が、I大チームをピエトロパウリ氏が、
直前の練習の専属コーチとして待ち受けた。
(各コーチの和名から、ここではK大チームを「夢チーム」、
I大チームを「平和チーム」という恥ずかしい渾名で呼ぶこととする。)

言葉の壁やメディアの壁に阻まれながら、
前人未到の道なき道を掻き分けて進む羊のような日本選手たち。
このお話は、そんな彼らの通った獣道、羊の道をたどるルポ・・・ということで。

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主な登場人物(日本人は渾名です。わかる人にはわかるだろうけど)

ピエトロパウリ氏: 和名、瑠知安。平和チームのコーチ。MUDチームの選手でもある。
トモ: 平和チームの黒一点。
キャン: 平和チームのおキャンな元気キャラ。 
ママ: 平和チームの癒し系キャラ。

ソネレック氏: 和名、帝夢。夢チームのコーチ。MADチームの審査員でもある。
ヒメ: 夢チームの楽観キャラ。渾名は姫様のような振る舞いから。
キティ: 夢チームの根性キャラ。出発2日前にピンチヒッターに入ったツワモノ。
私: 夢チームのババキャラ。ヒメとキティを合わせて「うちのジョージョー」と呼ぶ。

リンチ氏: ソネレック氏の恋人。MUDの選手。
ディロン氏: インドネシアチームのコーチ。MADの選手でもある。
レイン氏: 本大会の副審査委員長であり、準備大会の主催者。
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6月30日、午後到着。

空港で即効MMUのチームと鉢合わせる。
今回は若い衆しかおらんのだなと思ったら、ラジェンドラ氏はまだ機上、
バラビジェンドラン氏はあそこだと指差す。
空港の床に転がる足だけが見える。
・・・・・・ローガン・・・・・・床で寝んなよ・・・。
とりあえず挨拶を交わしているところに、これまた審査委員長のモア氏登場。
副審査委員長のレイン氏を待ってるんだって。
なんか眠くて頭が回らないのでヘンテコリンな挨拶をして辞す。

我々6人はとりあえずバンでホテルへ。
訛りの強い運転手のおっちゃんは、明日から日本の高校生のガイドだと言う。
小さな港町に着いた。どうやらこれが首都らしい。いやはやびっくり。
薄暗くなりつつある空を見上げつつホテルチェックイン。
便利そうなロケーションに一安心したがこれには落とし穴がある。
それはまた後で。

とりあえず一部屋に6人集まってみる。
主催側のお気楽なマネージにより、
明日からの訓練の集合時間はおろか集合場所も知らされていない。
どうせこのホテルに皆泊まってるんでしょ、と思ったらどうやらそうではないらしい。
誰か情報を持っていそうな人からブリーフィングを受けないことには
にっちもさっちも行かない状況である。

「着いたら連絡しあおう」と約束していたピエトロパウリ氏に電話。
つながらじ。
仕方ないので氏の泊まるホテルにも電話。
おらじ。
何処で遊んでるの、ルシア。

仕方ない、とりあえず夕飯を食べよう、と出かける。
が・・・、何もない!!!
レストランは、パブは一体どこだ!!??
何故金曜日の18:30に何処の店も閉まっているのだ??

散々歩いて漸く見つけたのは中華の店。
入ってみると8.5ニュージーランドドルのディナセットがあるなど、
リーズナブルなお値段。味もなかなか。
幸せいっぱいの私たちは「いざとなったらここに来ることにしよう」と決める。
まさかこの時はこの中華料理店に毎日通いつめることになろうとは知らない。

食事中にソネレック氏から電話をもらう。
総出で一緒に飲みに行くことに。
優しいことにリンチ氏と2人でホテルまで迎えに来てくれると言う。

約束の時間20:00の5分前にノックの音。再会の抱擁。
恒例のチューハイをお中元に渡す。
ヒメと私は何度も面識があるのでリラックスしているが、
他の日本勢はちょっと緊張しているようだ。
・・・と思ったらピエトロパウリ氏からSMS。
こちらも一緒に飲みに行こうと言ってくださっておる。
しかしどうやら同じパブのことみたいだぞ。なーんだ。
じゃ、行こう行こうということになる。

リンチ氏の先導でパブに向かうと、
そこにはMUDやMAD、MMU、そして主催大学の人たちがゾロゾロ。
皆さん既に出来上がっていらっしゃる。
まだ早いだろ、と心の中で大きく突っ込む。
無事ピエトロパウリ氏やディロン氏、レイン氏とも再会。
嗚呼会えて嬉しい。たった半年なのに随分長いこと会えなかったみたいだ。

飲み始めてすぐ、ソネレック氏が「あそこに座ろう」と日本勢を誘う。
彼を囲んで座って、準備大会・本大会の下情報をブリーフィングされる。
最初は酒の席のたわいもない話がメインだったのだが、
すぐに試合準備の打合せに入る。まことソネレック氏らしい。

一番時間を割いて話したのはWTOの過程差別禁止条項について。
WTOには、製造過程の違いを理由に関税障壁を設けてはならないという原則がある。
「Product Not Process」を基準にする、というものだ。
これは自由貿易促進には良いことだが、
環境問題や労働条件の低下に対抗するためにはしばしば問題となる。
ソネレック氏は、夢チームの選手やたまたま居合わせたMUDチームの若い選手に、
何故環境・労働問題に悪影響なのかを説明するよう執拗に要求した。
一度説明を聞くとキーワードを提示し、より解り易く簡潔にするためのヒントをくれる。
そしてもう一度説明するよう要求するのだ。
酒場でビールを飲みながらまだスピ練させる。
この生真面目さがソネレック氏の持ち味であり、可笑しくも愛らしいディベキチぶりだ。
言葉の壁のためシャープな表現をし損なう傾向がある日本チームにとっては
これほど有難いことはない。無二のコーチだ。

私は延々とソネレック氏のディベート談義に耳を傾け、
その場でスピーチ練習までおっぱじめ、その合間に旧友達と乾杯し・・・
というのを続けていたわけだが、
平和チームの面々はどうやらフライトの疲れが残っていたらしく、
早めにホテルへ帰っていった。
ジョージョーたちもしばらくするとそわそわし始めた。
そこへディロン氏の一言。「宿で飲みなおそうぜー」

ていうかあんたの宿どこ?と思わないでもなかったが、
どうやらそこが明日の朝の集合場所らしいので行かないことには大弱りだ。
仕方ないな、じゃあ付き合うか、と思ったら日本勢は総勢引き上げ。
私一人になってしまった。やれやれ、いつも通りな展開だ。

ピエトロパウリ氏とジョージョーを送りがてら一旦私たちのホテルまで歩いた。
ついでにお土産に持ってきた日本酒を二次会に差し入れようということになった。
今回持参したお土産は、ソネレック氏にチューハイ6本、ピエトロパウリ氏に塗りの三段重に入ったお菓子、ディロン氏と主催大学にそれぞれ日本酒一本ずつである。一応個々人の好みに対応した形にしたつもりである。主催大学の分はその場にいたモア氏に手渡したところ、なんだかとっても喜んでくれて持って来てよかったなぁと思わされた。これは後日改めて持って来て本当に良かったと思わされるシーンがあった。

着いてみると、どうやらホテルのラウンジは飲酒厳禁らしく、皆は飲まずに酔う二次会に興じていた。こんなことならもう一・二杯飲んでからパブを出るのだったと思ったが後の祭りだった。

皆アルコールもなしに飲み会ゲームをしている。
たとえば「ネバー・エバー」という古典的なゲームは、丸く座って順番に
「私は今まで一度も○○したことがない」と言う。
座中の人で○○したことがある人は飲まなければいけない。
誰も○○したことのある人がいなければ、言った本人が飲まなければならない。
そういう単純なゲームである。
しかしまあ若い人間の集まる飲みゲームの常で、どうしても下品な方向に行きがちである。
例えば「私は今まで一度もアンジーの彼と寝たことがない」なんぞというのは、
座中の特定の人間をターゲットとしたもので、こういうのがアンジーのいる場で言われるのだ。
しかも誰が飲むことになるのかは皆知っている・・・(汗)エグ過ぎないですかね・・・
ていうか私はこの手のゲームが苦手で、早くもギブな気分でした。ギブ、ギブギブ。勘弁して。

素面で参加するにはテンションが高めな集まりだった上、長かったフライトの疲労がたまっていたので、お喋りやゲームの騒ぎが一心地ついたところで早めに引き上げた。とても治安が良い街とは聞いていたが、女の夜中の一人歩きはやはり恐いものなので、できるだけ明るい道を携帯を握り締めて自分のホテルまで歩いた。

歩きながら色々思った。
翌日からのこと、本大会のこと、
直前にメンバー入れ替えのあった夢チームのコンディションのこと、
これからの自分のディベートとのかかわりのこと、
出国直前に慌しく出してきた原稿のこと、
そしてこれまでのこと、これまでのこと、これまでのこと。

考えても仕方ない。
早く試合がしてみたい。

そう夜空を見上げて思った。

(羊の道物語 第一話 おわり)
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