Sunday, August 27, 2006

羊の道 第六話

時系列的にはちょっと戻ってしまいますが,
プレオーストラルの予選3試合目について。
論題の精確なワーディングがわからないのですが,
忘れてしまうと勿体無いので書いておきます。

大雑把に言うと「婚姻で政府が果たす役割はない」というような論題でした。
対戦相手は平和チーム。平和チームが肯定側で,夢チームが否定側。
ソネレック氏がファースト,キティがセカンド,私がサードで,ヒメが最終答弁でした。

準備中は,「婚姻制度廃止」のケースを想定して準備していました。

日本ではあまり意識されていませんが,婚姻には法的な側面と,宗教(文化)的な側面とがあります。なので,準備していた議論は「宗教だけに任せてはいけない」というものでした。宗教上認められていない結婚(ゲイ・マリッジとか)で認められるべきものがある,そういうケースでは教会の代わりに政府が承認してあげることが大切という話をすることになりました。極端に言えばアンチ宗教っぽい内容でした。

ところが蓋を開けてみると平和チームのケースは,「同性愛者の権利を認めて,結婚ではなくCivil Unionの制度にしよう」というもの。げげげっ。そんなんあり?!と思いつつ大慌てで議論を反転。
宗教的・社会的な価値感に反しすぎているのはダメ,という議論を急いで準備しました。当初予定していたのとは真逆の内容です。

しかし・・・ファーストのソネレック氏のスピーチを聞いていて,正直スタンスがよくわからない。突然30分の準備を捨て去ってゼロからやってるわけですからチームメートの話は注意深く聞かなければいけません。まったくのアドリブ。音楽ならジャズな状態。矛盾のない一貫性のあるスタンスにするべく必死でソネレック氏のスピーチを聞きました。・・・が,わからない。もう混乱するばかりでした。

仕方ないので,相手のスピーチ中に必死でソネレック氏と意見調整。
混乱する頭を何とか無理やり整理してスピーチに立ちました。

私のスピーチ内容は以下。

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両チーム共,ゲイ・マリッジが認められるべきだ,ということでは一致しています。
しかし肯定側は法制度の改変によって社会に無理やり今すぐ認めさせようとしています。
否定側は,そうではなく,社会の価値観と歩調を合わせて少しずつ浸透させるのが良いと思います。
それがこの試合のクラッシュ・ポイント(対立点)です。

民族をまたがった結婚,国籍が違う者同士の結婚,宗教を異にする者との結婚など,過去にタブー視されていきた結婚も今では認められるようになっています。否定側はゲイ・マリッジも将来的に社会の承認を得られると信じます。しかし焦って今すぐ強制してしまえば,かえって社会の反発を招き逆に差別を悪化させる結果になると思います。ですから,肯定側が言うように突然法制度を先行して変えることには反対です。

今日,私のスピーチの中でお話したいのは次の4点です。
①婚姻における政府の役割が何なのか
②政府が介入するべき時がいつなのか
③現状を維持した場合に今後どんな社会になっていくのか
④肯定側の提案を採択した場合の影響

では順番にお話したいと思います。

①政府の役割

政府の役割は,市民生活のミニマム・スタンダードを確保し,その上で文化的宗教的な価値観を尊重することです。そもそも結婚とは,法的な手続きだけではなく,社会的な承認の儀式となるものです。だからこそ我々は指輪の交換をしたり結婚式を披いたりするのです。これは社会・コミュニティに私たちの夫婦としての絆を認めてくださいと要請する象徴的な意味を持つのです。こうした社会の承認の有無を無視して法律だけ変えても解決にはなりません。

肯定側は政教分離を根拠としていましたが,政教分離とは市民を無神論者にすることではありません。社会や宗教の価値観を尊重することも大切な政府の役割です。我々は社会から宗教を排除することなどできません。排除したくもないはずです。そのことは共産主義国家が壮大な実験を行い確認したはずです。宗教は社会の大切な一部です。政府の役割は宗教を無視したり,市民から取り上げることではありません。

②ではどのような時に政府は婚姻に介入すべきなのでしょう。

それは,特定の集団が搾取されている場合です。深刻な搾取が発生している場合には,私たちは社会の成熟を悠長に待っているわけにはいきません。

例えば一夫多妻制は,女性を搾取するシステムです。男性一人に対して女性は複数。強い立場にある男性が弱い立場にある女性を利用したり脅かしたりすることのできる制度です。このような慣習に対しては政府が介入し,男女が平等な一夫一婦制を基本にすえるべきです。同様に年少者との婚姻も法律で禁止されるべきです。なぜなら,強い大人の立場を利用し,弱い子供を搾取するのが年少者との婚姻だからです。このような深刻な搾取に対しては政府が介入することで防がなければなりません。

しかしながら,ゲイのカップルに関してはこのような搾取の関係がありません。確かに婚姻が認められないのはフェアではありませんが,それによって差し迫った危険や搾取の構造が生まれているわけではないのです。ですから,一夫一婦制や婚姻開始年齢の法制化の場合とは異なり,政府の介入の必要性は低くなります。

③これに対し,否定側は現状維持による徐々な変化が実を結ぶと考えています。

先ほど述べた通り,民族間結婚・国際結婚・宗教間結婚を初め,そもそも離婚や別居も長くタブーとされてきました。しかし社会は徐々にそれらを受け入れました。現在では,国際結婚をしたからといってもしくは離婚したからといって差別を受ける危険は殆どありません。同性愛者の婚姻についても,今後同じように社会的認知が育ってくることと思います。

④しかし,肯定側のように焦って急激な変化を社会に強いると,かえって反発を招き逆効果になります。

それは,人びとが婚姻の価値自体が汚されたと感じてしまうからです。結婚は神聖で社会的認知を乞う儀式であると信じている人びとにとって,教会が神の教えに反していると言っている関係まで結婚と一くくりにされてしまえば,結婚に幻滅する事は避けられません。そのような結婚をしたいという気持ちも薄れますし,既に結婚しているカップルにとっては自分たちの絆の価値が下がったかのように感じてしまいます。政府が法制度改変の形でこのような変化を人びとに強制すれば,結婚に対する侮辱が行われたとして必ず反発を呼ぶことになります。

例えば,米国のいくつかの州が同性婚を認める法律改変をおこないました。その結果,国内での大きな反発を呼び,現在米国では同性愛者の婚姻を連邦政府が憲法で禁止するという「Defence of Marriage Act」が検討されています。これは同性愛者の婚姻に対する差別を長期的に解決する上で,かえって逆に困難を増やす結果になったといえます。せっかく成熟の過程にあった社会的認知が時代に逆行した方向に走ってしまった残念な例です。敗因は焦りすぎたことです。我々はあくまでも社会の成熟を待つべきであり,法制度の改変により無理やりに社会に変化を強いるのは良くないのです。社会の意識変化が法律を変える事はできても,法律が人びとの心を変える事はできないのです。

このような理由から,私たち否定側は肯定側の提案に反対します。
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この試合は夢チームの勝ちでした。

私のスピーチは結構褒めてもらえて嬉しかったです。最初の2試合はとにかく構成がダメで苦労しました。構成を良くすることがこの試合の目標だったので,その意味ではかなり改善したのではないかと思いました。特に混乱した試合だったので,かなり話を整理できたことは自信につながりました。

ただチームとしては私も含め前半の間かなり混乱して,スタンスを明示するのが遅くなりました。またスタンスを共有することにも難しく感じた点が多くありました。課題も残る試合でした。

ソネレック氏は,どうやら自分のスピーチに納得が全然いかなかったらしく,やたらへこんでいました。相手のケースが想定外のものだったので仕方ないのではないかと私は思いましたが,自分に厳しいソネレック氏的には充分へこむ要素だったようでした。「この試合はコーチ二人のスピーチも含めてmasakoのスピーチが一番良かったよ」と褒めてくれながらも表情に「俺はしくったぁーーー」という悔しさがにじみ出ていました。こういう表情を見て,ああこの人いい選手だなって改めて思いました。ディベートへの愛情と向上意欲に溢れる顔でした。

3 comments:

Anonymous said...

鈴木さん

ブログも始めたんですね。知りませんでした。

私は筆不精でなかなか手が出せません。

さて、婚姻と政府のMotionですが、ひとつ質問です。私も使った経験のある『社会の成熟を待つ』という議論ですが、これって相手側からは、『逃げ』とも取られないんですか?POIとかで、『いつになったら成熟するのか示せ』というような茶々が入るような気がします。『いつ』が難しいとしても、『どういう条件』をクリアしたときに、成熟したと言えるかという点を明確にするのが難しそうですね。

反対に、変わるべき将来を先取りする形で、『今』象徴的な意味合いで制度を入れて行く方法もありますよね。例えば男女共同参画法とか、男性の育児休暇とか。古くは女性とかマイノリティーの参政権とかですね。

最近はすっかりDebateともご無沙汰で、恐怖感が先立つ私です。

では。

go said...

ebiharaさん,コメントありがとうございます!

>『逃げ』とも取られないんですか?

取られると思いますぅ。

> POIとかで、『いつになったら成熟するのか示せ』というような茶々が入るような気がします。

その通りだと思います。豪亜大会形式はPOIがないので言われませんでしたけれども。

>『いつ』が難しいとしても、『どういう条件』をクリアしたときに、成熟したと言えるかという点を明確にするのが難しそうですね。

ホントにそうですね。基本的には急いだ場合のデメリットを膨らませて話すしかないのかな,とは思います。

今回はもうすっかり開き直って,「いつまでかかるか知らんけど,とにかくマジョリティが認めるようになるまで待ったほうが急ぐよりはマシ」という形にしました。

おかげですっかり,アメリカのDefence of Marriage Actの例に頼りっきりになってしまいました。

久々にDebateネタでお話できて懐かしくなりました。恐怖感なんて仰る割りにカンは全然錆びてなさそうですよね,ebiharaさんは。かえってそちらでパワーアップされたのではないですか?早くまた試合をご一緒したいです☆

Anonymous said...

相変わらす、レスが早いですね。参考になりました。

私は最近、アメリカ人にならって、早寝早起きの生活に変えました。(笑)

嶺南亭さんのように日々鍛えているわけではないので、ちょっと引け気味ですぅ。