Saturday, October 07, 2006

[Book] 美しい国へ Beautiful Country

[本] 安倍晋三. 2006. 『美しい国へ』. 文芸春秋.

2ヶ月ほど前に読んだのですが今頃アップします。
なぜなら、テレビでふかわりょうが、「読んで(安倍さんを)大好きになっちゃった」と叫んでいて驚いたから。

えええ??この本で好きになったの????
うーん・・・ちょっとそこは異議ありって感じ。

確かに、尤もだと思う部分もありましたけれども、「これはないだろ!!」と叫びたくなるような部分も・・・

たとえば133ページ。以下引用。
------------------------------
”交戦権がない”ことの意味

 もうひとつ、憲法第九条第二項には、「交戦権はこれを認めない」という条文がある。これをどう解釈するか、半世紀にわたって、ほとんど神学論争にちかい議論がくりかえされた。
 どこの国でももっている自然の権利である自衛権を行使することによって、交戦になることは、十分にありうることだ。この神学論争は、いまどうなっているか。明らかに甚大な被害が出るであろう状況がわかっていても、こちらに被害が生じてからしか、反撃ができないというのが、憲法解釈の答えなのである。
 たとえば日本を攻撃するために、東京湾に、大量破壊兵器を積んだテロリストの工作船がやってきても、向こうから何らかの攻撃がないかぎり、こちらから武力を行使して、相手を排除することは出来ないのだ。わが国の安全保障と憲法との乖離を解釈でしのぐのは、もはや限界にあることがおわかりだろう。
-----------------------------

えええええええええ??????
この行には本当に驚きました。特に「たとえば」以降の部分です。

だってさ、東京湾は日本の領海じゃん!交戦権全く関係ないし!!!

銃刀法違反だって警察が取り締まれるのに、大量破壊兵器を指くわえて見てなきゃいけないわけないじゃん!!!!万が一銃に関する法律はあるけど大量破壊兵器に関してはないってんなら(んなアホなことあるのだろうか)、つくれよ、法律!!マリファナは取り締まる法律があるけどヘロインはないんだ、みたいな状態だってんならそれ自体変な話だけど、じゃあ法改正しろよ、と思います。そんなの純粋な国内問題じゃん。

たとえば、ピストルを所持して日本に入国しようとする人が成田空港に降り立ったらどうなるか。そりゃ入国許可されませんよね。大体、怪しいと思ったら強制的に鞄を開けさせられて、検査されて、ピストルが出てきたら逮捕ですよね。「銃刀法違反」!ピストルを持ってると知っていてもピストルを撃つまで警察は手出しをできないなんてそんなあほなことない。抵抗したり、逃走しようとしたりしたら「公務執行妨害」!更に事態が悪化すれば警官の方も発砲するかもしれません。実際普通の犯罪捜査中に警官が発砲してるケースなんて沢山あるでしょう?普通の警官では手に負えない相手なら機動隊だのSATだのが出動するわけでしょう?それでも駄目なら自衛隊出すわけだ。

それとどう違うんだ???

「日本を攻撃するために、東京湾に、大量破壊兵器を積んだテロリストの工作船がやってきたら」、領土内なんだから警察や自衛隊(この場合海上自衛隊?)の武力で取り押さえるのは、交戦行為でもなんでもないじゃん!!実際領海侵犯してきた不審船を銃撃したことあるじゃん!でもその不審船の出身地と思われる国と戦争に突入したなんて言う人どこにもいないじゃん!だって領土内だもん!!万景峰号だって拒否できたでしょう?

普通の犯罪者相手に警察が発砲して「交戦行為だ!」なんて言われたことあるかしら。それが大量破壊兵器を持ったテロリスト相手だったら発砲しちゃいけない、憲法にそう書いてある、だなんて、大嘘もいいところだ。

幾ら、空港や港湾施設は法律上特殊だとは言っても、武器や麻薬の所持取り締まりはちゃんと出来ているはず。私は例えば以下のサイトの説明の方が正しいと思う。
http://sociosys.mri.co.jp/stuff/2004/0618_2.html

違うの?????

ロシア領内に入り込んで密漁している漁船があったら、ロシア側が銃撃することもあるわけでしょう?それは犯罪の取り締まりであって、日本との交戦行為じゃないじゃん??

違うの????

正直、この行を読んだ時には寒気がしました。
だってこんな頓珍漢で浅はかな嘘を信じて、この国は憲法改正を検討しているわけ?????

憲法改正の議論は大変複雑で難しい問題だと思います。
両方の意見にそれなりに説得力があると思う。
私個人はそれでもやっぱり九条を変えるのは反対だし、
愛国心教育なんてやめて欲しい。
けど、反対の立場にいる人の気持ちが全くわからないとは言いません。

けどさ、幾らなんでもこんな国の一大事に関して、こんな初歩的なところで、
こんな出鱈目な発言を一国の首相がしているってどういうことなんだろう・・・
こんな嘘を大真面目に言って、「だから憲法改正しなければ」って言ってるの??
いくらなんでもあんまりじゃないだろうか・・・

政治家として、不勉強じゃ済まないレベルでしょう???
中学生レベルの法制度理解がありませんってことだもん。
安全保障以外のことだってこのレベルなんだとしたら由々しきことだ。
それともまさか確信犯なの?
嘘だってわかってるけど、国民を騙すには充分ってことなの?

ホント、どういうことなんだろう・・・
それとも私がよほど馬鹿で、実は領土(海)内に大量破壊兵器を持ち込まれても
警察は何も出来ないのでしょうか?何か私が見落としてるのでしょうか・・・

ふう。

今政権全体の評価はよくわかりません。
安倍さん以外の人の閣僚がどうなのかもわかりません。

けど、こんな、こんな無知とか嘘とかでは済まないような説明で、
憲法改正に政治家生命かけちゃうような首相には投票できません。

憲法改正が必要なら仕方ないさ。改正しよう。
けどこんな、こんな酷い低レベルな議論でそんな大事なことを決めるだなんて・・・
本当の議論はもっとずっと深くて複雑で難しいものなのに・・・
まっとうな議論して欲しい。それでお給料貰ってるんでしょう??
きちんと議論して欲しい。

ディベータの端くれとしては、この本には正直憤りを感じます。
こんな嘘で国民をまるめこもうだなんて・・・汚い。
この本読んで「大好きになっちゃった」という有権者にも激しい憤りを感じます。
こんな嘘にあっさり騙されるなんて・・・情けない。

あ、しまった。今日は随分怒り心頭な投稿になちゃった・・・

ま、いっか。今日は冷凍庫に新発売のハーゲンダッツがあるんだ。(^v^)
夜中だけど食べて幸せ取り戻しちゃおっと。

5 comments:

Anonymous said...

いやー、確信犯なんじゃないすかね?
日々の発言から見ても、一貫性はともかく、その程度の法を知らないとは思えないので。

>東京湾は日本の領海じゃん!交戦権全く関係ないし

交戦権と領土って関係あるんですか?
交戦権の定義自体も曖昧ですが、一般的な「戦争をする権利」と解釈するなら、問題は「相手が国家か個人か」だと僕は理解していたのですが。
同じ殺人でも、個人が個人の意思で行えば犯罪、国家が国家の意思で行えば戦争。

たとえ日本領土内であっても、たとえば日本国が国家の意思で日本領空を飛ぶエアフォース・ワンを撃墜すればそれは戦争行為とみなされるのではないかと。

撃墜した側も軍、された側も軍、どちらも国家なので戦争→交戦。

で、問題の本書では、「テロリスト」とは書いていますが、通常の「個人的で大規模な暴力的犯罪者」という意味でなく、「北朝鮮」という意味で書いているのだと思われます。
アメリカとかも普通に北朝鮮をテロリスト国家とか呼んでますし。
「工作船」という表現が特にそれを示唆するような。

「東京湾に大量破壊兵器」というシナリオ自体、『亡国のイージス』か何かを見た直後に書いたんじゃないかとも思わせます。
映画好きみたいですし。



で、この「テロリスト」が「某国家」のこととみなすなら、その国家の武力行使に対してどれだけの先制的な行為がとれるのかはまだ曖昧のでは。

不審船撃沈の時にしても、一応「相手が攻撃してきた後で攻撃を開始した」ことになっています。
しかも結局相手も所属国を示さず、所属国と思われる国も「うちの命令で攻撃した」とは言っていないので、やはり「対国家」ではなく「ただの攻撃的な犯罪者に対して正当防衛を行使した」程度の事件でしかなかったのではないかと。

ロシアにしても、領海侵犯したのが民間のおじちゃんの船ではなくて、国の意思が入った海上自衛隊だったらあっちは交戦状態とみなすかもしれません。

ただの「(兵器があるかもしれない)不審な船」だったら普通に海上保安庁が取り締まれると思います。
尖閣諸島に旗を立てようとする中国の民間船とかは保安庁が取り締まってますし。

で、相手が国家の命令で動いている「工作船(というか軍艦)」なのであれば、了解を侵犯した時点で「侵略行為」となるので最初から海上自衛隊が出動するはずです。

ただ領海侵犯しただけの「侵略」に対して「自衛権」としての攻撃を発動できるのか、発動するとしたらどのようにするのかシナリオが決定していない、という批判はありますね。

でもまぁ、そもそもこういった想定は今に始まったことではないので、「そろそろ」憲法との乖離が限界に来ている、という語調には違和感を禁じえません。
自衛権の解釈をもっと拡大しちゃえばいいような気も。


日本は本当に「先制攻撃」を恐れる国なので、警察レベルでも軍レベルでも「どこまでが先制攻撃なのか」については他国に比べて相当基準が厳しい傾向にはあると思います。
警察も、実質的には「発砲は禁止」されているといっても過言ではないですし。
基本は「撃たれるまで撃つな」、できれば「撃たれても撃つな」らしいです。
浅間山荘の時は例外中の例外らしく、安田講堂etcで全共闘が火炎ビンを投げつけてきたときにも拳銃を持たずに出動して、盾だけで対抗しています。



・・・長文、失礼しました・・・m(_ _;)m

go said...

hiloki君,コメントありがとう。

大切な話題だと思うので,通常の投稿に原則的な部分のレスを出しますね。

後でこちらに個別的なコメントをします☆

go said...

> いやー、確信犯なんじゃないすかね?

うん。あの本は「啓蒙書」として書いたつもりなんだと思う。だからやたらと話を単純化してあったり,平易な言葉に置き換えたりしてある。更には単純化しすぎた結果ウソになってしまっているところもある。読者を馬鹿にしているとも取れます。

けど,それ読んで「大好きになっちゃった!」って言う人がいるんじゃ…情けないよね。馬鹿にされても仕方ないじゃん。

>その程度の法を知らないとは思えないので。

そうだよねーーーー。
頭は良さそうだもんねぇ。

> 交戦権と領土って関係あるんですか?

これに関しては,今日の投稿に書いたとおりです。領土内か外かは大いに関係あると思いますよ。

九条の禁じている交戦権は,集団的自衛権と攻撃する権利,であると思われます。個別的自衛権は九条の言う交戦権とはおそらく関係ないのでしょう。少なくともそれが現在の政府の見解のはずです。

何十年も前には,九条が個別的自衛権をも禁じていると論じた人もいるようです。しかしこれは,日本には主権がない,と言ったも同じ。流石にそれでは憲法自体が意味をなさないわけで(国民主権って,存在しないものについて書いてあるのか?みたいな),現在ではそこまで極端な解釈をする人は少ないかと思います。私は,個別自衛は認めるが集団自衛は認めない,という今の政府解釈は大枠でリーズナブルだと思いますけどね。

個別的自衛権の意味を鑑みて,集団的自衛権も解釈すると,個別的自衛権が日本の領土だけを防衛するのに対し,集団的「自衛」権は,同盟国の領土をも防衛するという意味になる筈。

同様に,攻撃する権利は自国領土でも同盟国領土でもない国に侵入したりミサイルを撃ち込んだりする権利,ということになります。

そう考えると,「米国の戦争に巻き込まれる」というやたら大雑把な国会での言い回しも,実際には分類して考える必要があります。

①米国本土が攻撃された場合

これは,米国領土内に自衛隊が行き,米国領土に侵入してきた敵との戦闘行為に加わるのなら集団的自衛(そんなことまず起きないと思うけど)。アフガンやイラクを報復攻撃する連合軍に加わったら単なる攻撃ですよね。同盟国の領土から出てるもん。国会やメディアでの議論ではそこらへんがゴッチャにされている気がします。

②韓国が北朝鮮に攻撃された場合

日本と韓国は直接的な同盟関係にありませんからね。米国を通じて間接的にはなんとなくグループになっているような気はするけど,法律的にはないですよね・・・

でもまあ,韓国がもし要請したら(しないと思うけど)韓国領土に自衛隊が行って北朝鮮軍とそこで戦うのは集団的自衛に入るのかなぁ・・・

③米国が北朝鮮を先制攻撃した場合

これは一緒に参加したらただの攻撃だよね。ミサイル防衛はここら辺が微妙だよね。

④PKO/PKF

自衛隊のPKO参加には5つ条件があるっていうのは随分前に書いたよね?

-当事者間の停戦合意があること
-当事国の要請があること
-PKOが中立な立場を取ること
-いつでも撤退可能な状態にあること
-装備は自衛目的の極めて軽いものに限定すること

です。

武装していない上,当事国の許可があって入国しているから,軍隊派兵じゃない。普通の技術援助の派遣と変わらない,というスタンスですね。通常の市民に正当防衛が認められるのと同じように,銃撃されたら最小限発砲し返しても良い。

これがPKFになると,重武装になるし先制発砲もするから,明らかに軍隊派兵になる。当事国(国連加盟国)の要請があれば,同盟関係にある国の自衛のための活動とも解釈できるから,集団的自衛になる。これは違憲になりますね。

>「相手が国家か個人か」だと僕は理解していたのですが。

うーん・・・それはどうかなぁ・・・

> 同じ殺人でも、個人が個人の意思で行えば
> 犯罪、国家が国家の意思で行えば戦争。

でも死刑や警官による発砲は,日本国家が行っていて相手が外国籍でも戦争行為じゃないでしょう?

> たとえば日本国が国家の意思で日本領空
> を飛ぶエアフォース・ワンを撃墜すれば
> それは戦争行為とみなされるのでは
> ないかと。

エアフォース・ワンは,アメリカ大統領の乗った米空軍機だから,ちょっと良い例ではないと思う。日米同盟で米軍は治外法権を持ってるからね。

エアフォース・ワンではなくて,北朝鮮のエアファイターが日本領空に侵入してきたとすれば,それ自体が戦争行為だよね。日本側が打ち落としたらそれは「個別的自衛権」の行使でしょう。まあでも日本と北朝鮮はまだ平和条約を結んでいないからテクニカルには新たに戦争を起こしたことにはならないかもね。2年位前に北朝鮮機が韓国領空に侵入したけど,あの二国もテクニカルには今でも「停戦中」だしね。これもあまり良い例じゃないか。

これが中国機だったら,日中平和友好条約があるから別だよね。了解もなく領空侵犯してきたらそれ自体が開戦行為だから,航空自衛隊に撃墜されたとしても文句言えないと思うよ。その場合日本側の行為は自衛権の行使でしょう。

> 撃墜した側も軍、された側も軍、
> どちらも国家なので戦争→交戦。

うーん・・・日常感覚的にはどれも全部「戦争行為」なのかもしれないけど,一応憲法九条は区別している,というのが今メジャな憲法解釈だと思うよ。

>「東京湾に大量破壊兵器」というシナリオ
> 自体、『亡国のイージス』か何かを見た
> 直後に書いたんじゃないかとも
> 思わせます。

だああああ。
もしそうなら救いようがなくない?
右傾映画に感化されて愛国心に目覚めましたって・・・初年兵の海兵隊入隊理由じゃないんだからさ。18や19の子供じゃなくていい年してんだからそんな単純なおつむで国政預かるな,って思うんですけど・・・

> で、この「テロリスト」が「某国家」の
> こととみなすなら、その国家の武力行使
> に対してどれだけの先制的な行為が
> とれるのかはまだ曖昧のでは。

合憲な範囲は一応明確なんじゃない?明らかな領海侵犯だったら,先に撃っても個別的自衛権として許されるはずじゃない?

でも撃つ権利があるのと実際に撃つのとは別だよね。

だから実際に撃つべきかどうかは曖昧かも。でもそれは憲法論争とは関係ないでしょう。

> 不審船撃沈の時にしても、
> 一応「相手が攻撃してきた後で
> 攻撃を開始した」ことになっています。

だから別に個別自衛権がないからとかじゃないと思うよ。国土内で違法行為をされたら攻撃したって別に違憲にはならないと思う。ただ,攻撃する必要があるかどうか,攻撃するべきかどうかは別だよね。どこまでが必要最小限なのかがわかりにくい。もしくはどこからが過剰防衛なのかがわかりにくい。不審船程度だったら,先に発砲までしなくても対応できるかもって思うから迷うよね。

けど,安倍さんが挙げている例は,明確に攻撃する必要があるケースだよね?その場合も攻撃する権利がない,というのは事実と逆じゃないかな。

> 日本は本当に「先制攻撃」を恐れる国
> なので、警察レベルでも軍レベルでも
> 「どこまでが先制攻撃なのか」について
> は他国に比べて相当基準が厳しい傾向に
> はあると思います。

うん,集団的自衛も攻撃も認められていない以上,警察と自衛隊には大した違いはないと思います。自衛隊は警察予備隊と呼ばれてたくらいだしね。まあ,細かい法律は当然違うけど。

警察は個人相手,自衛隊は国家相手の分担をしている,というのはhiloki君の言うとおりだと思います。

でも基準が厳しいのは,先制攻撃か否かや攻撃する権利があるかないかよりも,どこまで攻撃するべきか(必要最小限か)どうかの方がバーになってるんだと思う。

> 警察も、実質的には「発砲は禁止」
> されているといっても過言ではないです
> し。
> 基本は「撃たれるまで撃つな」、
> できれば「撃たれても撃つな」らしい
> です。
> 浅間山荘の時は例外中の例外らしく、
> 安田講堂etcで全共闘が火炎ビンを投げ
> つけてきたときにも拳銃を持たずに出動
> して、盾だけで対抗しています。

そうだねー。何十年も前はそうだったらしいけど,最近は凶悪犯罪の増加を理由に,拳銃携帯命令が降りる件数は随分増えたみたいだね。実際警官による発砲は今では昔に比べて珍しくないみたいだよ。

Anonymous said...

仰る通り、実際に北朝鮮が核実験をしている時に、「東京湾テロ」について議論しているのは若干空しいものがありますね。

憲法は具体的な行動規範ではなく、法律の方向性を定めた原理の話なので、憲法を改定しようとしまいと具体的な法律案がなければどうしようもありませんし。

集団的自衛権を憲法に明記したところで、具体的法案がなければ行使不能なのに。


北朝鮮は他の機械に回すとして。


僕も最初に本書の文言を読んだ時には、masakoさんと同様「このケースは交戦権と関係ないじゃん」と思いました。
ただその理由が「領土内だから」ではなくて、「そもそも国家ではないテロリストに対して “交戦権”がどうのこうのという問題は適用できないのでは」という理由で。

masakoさんの10/9の最初の投稿で、「よってテロリスト東京湾進入のケースは個別的自衛権を行使できる」とありましたが、そもそも個別的自衛権が云々の範疇にさえないと考えていました。


以下、定義の引用については憲法のスタンダード教科書の『憲法』(芦部信喜著,岩波書店)をベースにしています。

交戦権:「交戦状態に入った場合に交戦国に国際法上認められる権利、たとえば敵国の兵力、軍事施設を殺傷・破壊したり、相手国の領土を占領したり、中立国の船舶を臨検して規制船舶を拿捕する権利」

定義の中に「交戦状態」「交戦国」という言葉があり、実質的に意味を成していないようにも思えますが、想定しているものは「国家間の」闘争と考えられます。

そもそも日本国憲法9条が「戦争放棄」という題を掲げていますが、戦争の定義は

戦争:「宣戦布告または最後通牒によって戦意が表明され戦時国際法規の適用を受けるもの。広義では国家間における武力闘争」

とされる以上、(アメリカは過去200回の武力行使の中で4回しか宣戦布告していませんが)やはり相手として「国家」を想定しているものと考えられます。

テロリストに宣戦布告なんてできませんし。


ということは、「テロリストが東京湾に侵入」のケースは、もしこの「テロリスト」が「国家」でないとすれば交戦権の云々の範疇にはないと思うわけです。

単なる犯罪取締りの範囲ではないかと。
つまり「自衛権の行使」でさえないと思われます。

自衛権:「外国からの急迫または現実の違法な侵害に対して、自国を防衛するために必要な一定の実力を行使する権利」

と通常は解釈されるので、masakoさんも書かれた通り、通常の犯罪と同様に取り締まれると考えられます。
オウムの麻原の処罰に対して「自衛権を行使した」なんて誰も思わないでしょうし。


では、そのテロリストが外国(領土外)にいた場合はどうか?
たとえば、国家意思の入っていないテロリストグループがミサイルを作って日本を狙っている、とか。

僕は同様の理由で「取り締まれる」と考えます。
国内法ではなくて、テロリストの存在する国への要求という形で。

もしもその国が、日本へミサイルを向けているグループの行為を合法とするならば、そのグループの行為には国家意思が入っているとみなされ、国家同士の「交戦状態」に入るので、この時点でやっと「個別的自衛権」の話ができると考えています。

>> 同じ殺人でも、個人が個人の意思で行えば
>> 犯罪、国家が国家の意思で行えば戦争。
>
>でも死刑や警官による発砲は,日本国家が行っていて相手が外国籍でも戦争行為じゃないでしょう?

あ、すみません、「同じ行為でも」というのは「日本に対する同じ行為でも」という意味です。
犯罪者に対する警官による発砲、というケースなら、犯罪者が個人か国家かで状況は異なるという意味です。
発砲した相手が、ただの犯罪者なら「犯罪取締り」ですが、「国家の意思で犯罪を犯した人間」なのであれば交戦状態とみなされると思います。(発砲云々は関係ありませんが)

なので、誘拐犯がたまたま北朝鮮人だったのならそれは犯罪取締りですが、国家の意思で拉致したというのなら交戦状態でしょう。

ちなみに、日本赤軍が日航機をハイジャックした時、日本政府は関係各国に「お詫び」しましたが、これは諸外国を驚愕させました。
「お詫び」とは「自らの責任で行ったこと」に対してされるものなので、日本国家が「お詫び」するということは「テロは日本国家がやったことです」と言ったのも同然であり、日本は他国と交戦したつもりか、と。


というわけで、本書の文言を限りなく好意的に読むために、僕は「このテロリストというのは北朝鮮のような『国家』のことなんだろう。じゃないと交戦権がどうのなんて話は出てこない」と想定して、読み進めたわけです。


その後はmasakoさんと思考経路がほぼ同様かと。

自衛権はあるんだから現在の憲法で十分じゃん、と。
実際に、安倍さん自身が2003年に武力攻撃事態法の成立に立会い、その中で「武力攻撃を排除するために必要最低限どの武力を行使すること」を明示させています。

思いっきり「武力を行使するぞ」と言っていますねw

あとは仰る通り「何が必要最低限なのか」が問題になるだけですが。
確かに憲法の方向性とは関係がなくなってしまいます。


あと、交戦権については、政府見解が
1) 個別的自衛権:所有○ 行使○
2) 集団的自衛権:所有○ 行使×
3) 侵略的攻撃権:所有× 行使×

だからといって、「交戦権の否認」と適合させ「交戦権は集団的自衛権と侵略行為のこと」と解釈することは必ずしも妥当ではないと思われます。

憲法はあくまで「原則」(方向性)を定めているので、「原則的に、交戦権=交戦状態に入ったときに国際法上認められる権利 を放棄し、自衛のレベルでも禁止しつつ、運用段階では認めている」と解釈する方が妥当じゃないでしょうか(このへんが「神学論争」なんでしょうが)。

憲法13条には、人に迷惑をかけない限り何でもしていいかのような文面が謳われているにもかかわらず実際には善良な国民にも様々な制約が課せられているのと同様かと。

他にも、「憲法9条は自衛権を放棄しているが、自衛しないと国民の生活が脅かされ、幸福追求権を護持する13条と矛盾する。条文同士がぶつかっているので、自衛に関しては13条を優先させる」と解釈することもできます。

その意味で、安倍さんは「こちらに被害が生じてからしか、反撃ができないというのが、憲法解釈の答えなのである。」ではなく、「憲法第9条第2項第2文の解釈の答えなのである」と書くべきだったと思います。

憲法全体からは無数の解釈が可能なので。



以下、あまり本論と関係ないコメントをば:

・PKO/PKF
PKFは違憲かもしれませんが(合憲・違憲論争は自衛隊の存在でさえ存在しますし)合法ですよね。
PKO協力法に明記されていますし(PKFを禁止した附則が2001年に削除されたので)、ダルフールに派遣することさえ検討されていたくらいで。

・韓国について。
>②韓国が北朝鮮に攻撃された場合
>日本と韓国は直接的な同盟関係にありませんからね。

いや、日米韓は朝鮮国連軍のメンバーなので、韓国が攻撃された場合、この3国は国連軍として動くことになるはずです。
(というかアメリカは国連軍としての枠組みでしか法的には北朝鮮を攻撃できないはずです)
実際に日本も朝鮮戦争で戦って戦死者さえ出してますし。
で、実際にこういう事態になったときに日本はどう動くべきかという議論も全くされていません。

・治外法権について
>3.国内法はどこで有効か
>そのままですが,国土内です。国土外には適用できません。

アメリカは「イラク戦争は正当」という法律を国内で作って合法性の根拠にしてましたねw

・PKOに関するディベートを中学生でできるなんて羨ましいです。
中学も慶應ですか?
僕は地元の公立ですが、中学教育の時点で広大な格差があるのは何とも哀しい(ノ△・。)
親がたくさん本を持っていて自然にそれなりの情報が入ってきたので被害は最小限で済みましたが・・・。

go said...

> PKOに関するディベートを中学生で
> できるなんて羨ましいです。
> 中学も慶應ですか?

うううん。私も普通の地元の公立校だったの。

でもおそらく,中3の一年間にたった週一回あったあの授業が,私の長い長い学生生活全ての中で一番自分に影響を与えたと思います。もし適うことならあの時の先生,伊藤先生にお礼を言いに行きたい。今何処で教えてらっしゃるのか分からないから実現していないけど。

そうね,確かに恵まれていたと思う。そしてその運命の出会いが,不良の巣のように扱われていた中学でのものだったことも気に入っています。

> 中学教育の時点で広大な格差があるのは
> 何とも哀しい(ノ△・。)

そうね,確かに様々な格差はあるのでしょうけれど・・・でも中学でのディベートとの出会いが,私に「教育って分からないもんだな。金だしゃ良いってもんじゃないよな」って思わせます。(慶應の高校の授業は正直言って質が悪かったしね。私殆ど寝てた。ウソみたいにつまらなかったし同じことの繰り返しだったんだもん。あれであの授業料は詐欺だと思う。日本史は良かったと思うけど)

本題ですが,

> ただその理由が「領土内だから」では
> なくて、「そもそも国家ではない
> テロリストに対して “交戦権”が
> どうのこうのという問題は適用
> できないのでは」という理由で。

ああ,うん。
私は「どちらも」だと思います。

hiloki君の最初のコメントが「ただのテロリストではなく北朝鮮という国家を想定しているのではないか」ということだったので,個別的自衛権の方に集中してレスしましたが,

テロリスト一般だったら,警察の範疇でしょうね。(ただ警察で手に負えない場合は,最終的に自衛隊に出動要請が出ると思いますけれど。)でもそれもナンセンスな話でさ,そこまで入れないために海自は哨戒機飛ばしてるんじゃないかって見方もあると思う。

そうじゃなくて「テロ国家」を暗に指しているのなら,個別的自衛権の問題でしょうね。

だから,今回のhiloki君のコメントを読み砕くと,つまり何処にも意見の相違はない・・・みたい?

> そもそも日本国憲法9条が「戦争放棄」
> という題を掲げていますが、戦争の定義は

うん。一般的にはその通りだと思うけど,
日本に限ってはウルトラCだけど,
その戦争を3分類して一部(個別的自衛)は切り離してるんだよね。

政府見解は拡大解釈を重ねていると言われるのはそういうことでしょうね。

> ということは、「テロリストが東京湾に
> 侵入」のケースは、もしこの「テロリス
> ト」が「国家」でないとすれば交戦権
> の云々の範疇にはないと思うわけです。

その通りだと思いますよ。
War on Terrorっていうのは,あくまでもWar on Drugとかと同類の表現だしね。

私は「相手が犯罪者であって国家じゃない」のと「領土内である」ことの「両方」から安倍さんの文はナンセンスだと思いますけど。
(前回書いたとおり,私は自衛隊と警察の違いは大雑把に言えばないと思う。警察だって装備は軽いけど武力だと思う。だからどちらにしても「武力で排除することができない」っていうのは変だと思う。なんにしてもやっぱり憲法関係ないよね)

> では、そのテロリストが外国(領土外)
> にいた場合はどうか?
> 僕は同様の理由で「取り締まれる」
> と考えます。

え,うっそお。

> 国内法ではなくて、テロリストの
> 存在する国への要求という形で。

ああ,そういうことか・・・
いや,でもそれは「取り締まり」と言うの??

> もしもその国が、日本へミサイルを向けて
> いるグループの行為を合法とするならば、
> そのグループの行為には国家意思が入っ
> ているとみなされ、

うううううううううううんんんん。
それ,イスラエルがヒズボラを叩く時によく言うことだよね…
アメリカがアフガンを爆撃した時にも言ったけど・・・

うーーーーんんん・・・私はそうは思わないな。要請はあくまで外交の範疇であって交渉が決裂したからって即交戦状態になるとは限らないと思うよ。開戦が正当化されるわけでもないと思う。そんなの無茶な要求しまくれば幾らでも開戦の口実作れるじゃん。

確かに憲法が書かれた60年前とは違って,大陸間弾道ミサイルなんてものができちゃうと,領土内に留まっていては自衛も侭ならん!って焦る気持ちはわかるのね。けど,だからこそ,他の国が核弾頭を持とうとする試みをどうやって外交でやめさせるかっていうのが議論されるんだと思いますヨ。

> 憲法はあくまで「原則」(方向性)を
> 定めているので、「原則的に、交戦権=
> 交戦状態に入ったときに国際法上認めら
> れる権利 を放棄し、自衛のレベルでも
> 禁止しつつ、運用段階では認めている」
> と解釈する方が妥当じゃないでしょうか
>(このへんが「神学論争」なんでしょう
> が)。

うん,そうだね。
私には「神学論争」に聞こえる。
どっちだって良くない?
結局何して良くて何しちゃいかんと思ってるかが大切じゃない?
とにかく日本は,個別自衛はするけど,集団的自衛と他国領土への攻撃はしない,ってことでしょう?

原則レベルだ,実務レベルだ,運用レベルだ・・・と二元化,三元化していくのには反対。結局どうするべきなのか,どうしたいのか,どうするつもりなのか,全然わかんないじゃん。そういう乖離は良くないよ。

よく「憲法は絵に描いた餅であることに意義がある」って言う人いるけど,理想に近づけようとすることが前提でしょう?憲法にはこう書いてあるけど実際にはそうしない,って堂々と開き直っちゃダメでしょう。政府の公式見解が憲法とズレていると政府が認めるのは自己矛盾だと思うよ。

> その意味で、安倍さんは「こちらに被害
> が生じてからしか、反撃ができないと
> いうのが、憲法解釈の答えなのである。」> ではなく、「憲法第9条第2項第2文の
> 解釈の答えなのである」と書くべき
> だったと思います。

え???だって政府は反撃できるという解釈だか運用レベルの方針だかを取ってるわけでしょう?つまり武力を使って排除するんでしょう?第二項第二文に限定したところでまだ自己矛盾してるよね??


> PKFを禁止した附則が2001年に削除され
> たので

ああ,そうでした。
まあ,例の五原則が生きてる限りは現実としては参加できないと思うけど。

> いや、日米韓は朝鮮国連軍のメンバー
> なので、韓国が攻撃された場合、
> この3国は国連軍として動くことになる
> はずです。

あ,でもそれは一応平和維持軍(PKF)や停戦監視団と同じ扱いになるから,日本は例の五原則の枠内(おそらくPKO的な部分)だけ参加するんじゃない?結局後方支援でしょう?戦闘行為はしない,と。まあそれでも自衛隊員に危害が及ぶ可能性はあるけど。

韓国で「戦った」ら,それは集団自衛だから違憲だよね。

>(というかアメリカは国連軍としての枠組
> みでしか法的には北朝鮮を攻撃できない
> はずです)

うーーーん・・・でもアメリカはいつも「超法規的措置」ばかり取る国だからなぁ・・・

> アメリカは「イラク戦争は正当」という
> 法律を国内で作って合法性の根拠にして
> ましたねw

うん。ほかの国からしてみたら「はぁああ???」って感じの法律だよね。でもまあ,アメリカの憲法には九条みたいな制限もその政府公式解釈から来る制限も何にもないわけで・・・「俺には他人様の家に踏み入って不逞の輩をとっ捕まえる権利がある」って同等と国際ルールガン無視宣言するわけですけど・・・

そこら辺が「世界の警察」といわれる所以かしら・・・一般市民が守らなければならない法律を守らなくて良いのが警察だもんね・・・

今ありえそうなシナリオは,海上封鎖して,積荷検査を「要請」して,抵抗される内に発砲に至って,報復の名目の元に北朝鮮爆撃っていう流れらしいですね。

キューバ危機の焼き直しって感じもするけど・・・

> で、実際にこういう事態になったときに
> 日本はどう動くべきかという議論も
> 全くされていません。

そうそうそう。そこが腹立たしい。

ホント東京湾に核兵器の世迷言言ってる前に現実の政治についてきっちり説明責任を果たして欲しい。実際の政治に関しては突然具体性を欠く発言ばかりになるんだもん。

ちゃんと国民の前で議論してくれよ!!!って思う。

昨日の石破さんの具体案どれをとっても,キチンとコンセンサスを作らずに始めたら歯止めがかからなそうなものばかりだもん。