Wednesday, February 21, 2007

ポプラとカエデ (第六夜: Bali Hai may call you?)


水曜日。

今日は夜に岐阜からM先生がみえることになっています。何とか今日中にアイスブレイクを迎えておきたいなぁと緊張がともないますが,こればっかりは私がどうこうしようとしては逆効果です。黙って見守るしかありません。ドキドキしながらも見守っていると,午後,静かだった一年生から思い切ったように質問が。Tがエキサイトしているのがわかります。答える言葉に熱が篭っています。質問をした方も少し安心したようです。やれやれ,良かった。

これを皮切りに質問が増えました。一年生たちの表情も多少明るくなり,まだ授業中に質問できなくても授業後Tの周りに一年生の姿が絶えなくなりました。一歩前進です。やったーーー!!

これに気を良くして練習試合に移ったのですが,こちらのほうはどうも上手くいきません。Tはここ二日ほどかけて開発援助についての授業をしてくれました。特に南太平洋におけるオーストラリアの介入についてかなり重点的に話してくれました。パプアニューギニア,フィジー,ソロモン諸島,ツバル,トンガといった島々についての話が延々と続きました。練習試合はこうした南太平洋への援助に関する論題でしました。一年生が質問できるようになり始めたこと,かなり丁寧なレクチャーの後だったこともあり,初心者グループの方にTを割り振りました。

・・・・・・が,試合を開けてびっくり,そちらの部屋のDebateはフィリピンについてだったと言うのです。

・・・・・・これはかなりTには堪えたようでした。何せ二日間かけて熱心に説明したことがほぼ全く伝わっていなかったと,これ以上なく明白になったのですからショックでしょう。私にも結構ショックでした。本当に分からなかったんだな,と。もっと早くどこかで止めて,地図をホワイトボードに書くなり,初歩的な部分の確認をするべきだったのかもしれません。何が原因だったのかよく理解しないと次につながらないので,今後ゆっくりヒアリングする必要があります。

しかしな・・・・・・フィリピンが南太平洋に入るという感覚は凄いと思います。まあ日本よりは南にあるしな。確かに太平洋の島ではあるかな・・・・・・しかしな・・・・・・散々パプアについて聞いた後で何故・・・・・・いやしかしかつて「イスラエルって国ですか?」と訊いた後輩の顔を思い出し,日本の現代史や世界地理の授業がかなりお粗末であることも思い出しました。こういう生徒を世に出して平気でいる先生たちの顔が見てみたいものです。生徒が可哀想だと思わないのでしょうか。

まあ,ともかく,その日の夜の「お休み前の一杯タイム」では,Tはかなりこの点に固執していました。どうしたら良いのか分からなくて迷子の気分だと。その気持ちは分からなくもありません。しかし正直直近に片付く問題とも思えなかったので,少し話をずらしてみました。南太平洋のそれこそフィジーやパプアの閣僚をオーストラリア軍が拘束したといった記事を読むたびに,一体なんだってそんな他国の主権を無視しまくったことができるのだろう,と私はオーストラリアにアンチな見方をしていました。Tの説明を聞いて話は思ったより少し複雑だとわかったと言うと,Tは満足げでした。そうなんだよ,と身を乗り出していました。ただ,南太平洋諸国を見下しているところがないか,主権を軽んじていないか,と言われればそういう側面もやはりある,とのことでした。なるほどね。更に「一年生が質問できるようになって良かったね」と話をポジティブな方に戻して終了。ガッカリ感を少しでも払拭できたかな,とTの顔色を伺います。

その後,M先生が到着されました。私の部屋でヒメと飲んでいたTに「ご挨拶だけして」とせっつきお迎えいたしました。明日はビッグデイ。頑張らないとです。

Tがそろそろ寝るよーと自室に戻り,ヒメと少し話し彼女も部屋に戻り,その後部屋に独りになったときにはへとへとでした。頭の中に一瞬かの有名な映画『南太平洋』の「Bali Hai」が流れました。趣味じゃないわと頭をふりつつ,Tにとって日本がBali Haiだったらどうしよう,と不安にもなるのです。天国に一番近い島に憧れる人にろくな人はいません。Your own special hopesだのYour own special dreamsだの,私に言わせれば薄気味悪い,の極地です。第三世界にそういった一方的な期待を押し付ける姿は好きではありません。「The Beach」が救いようなくグロテスクなのと変わらないと思います。Special hopesもSpecial dreamsも要らない。どこの土地にもそこに住む人には生活があって,その生活の泥臭さを理解しなければその土地を愛するとは言わないでしょう。どうか日本をエキゾチックな国だと思わないで。私たちは普通に生活し,普通に学び,普通に話をしたいだけ。その普通が許されないから苦しいだけ。ティムは私たちが苦しんだりディボートしているところばかりを目にするので,私たちの生活者としての立場を忘れることがあります。異質な者と意識するようになれば同じ目線ではなくなります。それがどうしようもなく心配です。幻想の世界に行ってしまわないで。

Most people live on a lonely island,
Lost in the middle of a foggy sea.
Most people long for another island,
One where they know they will like to be.

Bali Ha'i may call you,
Any night, any day,
In your heart, you'll hear it call you:
"Come away...Come away."

2 comments:

izumi said...

これも痛いほどにわかりますねぇ。クッキーカッターのレクチャーきいて意味もわかってたつもりなのに、それが何を意味しているのかわかったのは、半年後だったんですよね。愕然として、その後悔やみ、TにIDC4で夜に泣きながら謝った気がします。

本人達はわかってたつもりだったんかもしれません。本人達は一生懸命でもちょっとの思い違いが大きな間違いになることもあるので。

izumi said...

これも痛いほどにわかりますねぇ。クッキーカッターのレクチャーきいて意味もわかってたつもりなのに、それが何を意味しているのかわかったのは、半年後だったんですよね。愕然として、その後悔やみ、TにIDC4で夜に泣きながら謝った気がします。

本人達はわかってたつもりだったんかもしれません。本人達は一生懸命でもちょっとの思い違いが大きな間違いになることもあるので。