Thursday, November 17, 2005

壁は何か

昨日の「壁よさらば」の壁は結局なんだったの、と思われた方もいらしたようでした。えっと、言及しませんでした。すみません。

ラテン語辞書で言葉の壁よさらば、って気持ちもありましたが、何よりもアイルランドの件についてのつもりでした。

アイルランドがその独立闘争、またその後の北アイルランド紛争における血にまみれた歴史を持っているのはご存知かと思います。

1649年のクロムウェルによる征服を機に、隣のブリテン島からの移民がアイルランド島の北東部を中心に活発に進みました。イングランドはアイルランドの土地をイングランドの地主に分け与え、アイルランド人の多くが小作農となりました。アイルランド人の土地取得件や参政権も大きく制限されました。同じように併合されたウェールズやスコットランドはイングランドと宗教を共にしていましたがアイルランドはカソリックの地。その扱われ方も大きく異なったといいます。映画「マイケルコリンズ」に権限委譲の式典に遅れたコリンズが「700年も(独立を)待たせたんだ。数分待たされたくらいでゴチャゴチャ言うな」というシーンがあります。アイルランドのイングランドに対する鬱積した想いの現れた台詞だと思います。

そんなわけで、イングランド憎し・ゲールの誇りを守れというNationalismがともすると強いと聞くアイルランド。一体そんな国がどうして今年7月、おそらく最もEnglishなスポーツであるクリケットで大成功をおさめるに至ったのでしょうか。それには北アイルランドと南アイルランド(アイルランド共和国)の歴史的な歩み寄りが背景にあるといわれます。

血みどろの闘争の末独立を果たしたアイルランドが、その後も大英帝国に帰属したままとなった北アイルランドを巡ってテロを繰り返し経験したのは皆さんご存知かと思います。北アイルランドの過半数は入植者の系列でプロテスタントです。対する南のアイルランド共和国は人口の93%がカトリック教徒です。民族、言語、宗教を異にするこの両者の衝突は激化。1992年の段階で死者の数は3000人を超えたと言われます。

しかし1993年のDowning Street Declarationを皮切りに和平に向けた対話のムードが盛り上がります。そして1998年、ついにall-Party talk(今で言う六カ国協議みたいなものでしょうか)は「Catholics/Southerners and Protestants/Northernersが島の権力と責務とをshareすること」に合意しました。この合意をGood Friday Accord/Agreementと言います。North South Councilは4つの主な分野(policing, normalization, stability of the institutions and decommissioning)において協力関係を築くことを宣言します。

このGood Friday Accordが締結されて以降今日までに様々なJoint Projectが開始されました。現在では警察や救急隊員が島の南北を問わず共同で活動している他、Joint Water Ways, Joint Tourism Board, Joint Traditional Music/Dance Festivalsなどなど多岐に及んだ活動が「all-Ireland basis」で展開しています。そんな中、Gaelic Athletic Associationもまた、all-Ireland Finalsを主催するに至ったのです。こうした全島での取り組みはクリケットにも影響を及ぼしました。

Gaelic Athletic AssociationというのはNationalisticで有名な団体で、ゲールの伝統的なスポーツを守る団体です。HurlingやGaelic Footballです。この団体の規約には以下の2つの項目がありました。

-No foreign games are to be played by any member of the GAA

-Ineligible to join the GAA are members of the Biritish armed forces and Police(RUC). And; A member of the GAA participating in dances, or similar entertainment, promoted by or under personage of such bodies shall incur suspension of at least 3 months.

前者はつまり、伝統的なスポーツに参加したければ、ラグビー、サッカー、クリケットといった外来のスポーツには参加してはいけないというものです。こちらは1970年に撤廃されました。

後者はRule21と呼ばれますが、英国警察の庇護の下にあった北アイルランドの住人がアイルランドの伝統的スポーツに参加することを阻むものでした。

こうした規制の下、クリケットは長くEnglish Protestantスポーツというレッテルを貼られ続けました。カソリックにとってクリケットをプレーするということは隣人に隠しておくようなことだったようです。長い間クリケット選手の殆どは北側のプロテスタントでした。国家の壁は、スポーツの世界にも大きく壁を築いたのでした。

しかしGood Friday Accord以降の様々な取り組みにより、南北の関係は大きく前進。Rule21も時代錯誤なものと見られるようになり、GAAは2001年についに撤廃に踏み切ったのでした。

こうして現在のIrelandのCricketチームは、
-世界ランキング11位
-2005年Interntaional Cricket Council Trophy準優勝
-2007年World Cupの出場権獲得
とその実力を大きく伸ばすに至ったのでした。

なんと現在のIrish Cricket Teamは、ProtestantとCatholic, NorthernersとSouthernersがほぼ同数の選手で構成されているのだそうです。

そんなわけで、「何故アイルランドのクリケットチームが今年強かったのか」は「壁が取り除かれたから」が正解でした。(^-^)

ちょっといい話でしょ。

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