Wednesday, June 21, 2006

[Book] イソクラテス弁論集1 Isocrate. Discours

[本]イソクラテス.小池澄夫訳.1998.『イソクラテス弁論集1』.京都大学学術出版会.

スリリングでドキドキする文章。
もっと勉強しなければと高揚する気持ち。
イソクラテスという人は、沢山の名演説を「書いた」けれど、
声が小さく小心であるのを気にして自分では話さなかったとか。
そんなの想像できない勢いのある文章です。
果たして小心であってこんな自信に満ちた言葉が紡げるものだろうか・・・
イソクラテスの文章に恋しそうな今朝です。

下の引用、特に最後の部分は、ちょっとチョムスキーを思い出します。

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 まことに、有益な言論を聞いて学ぼうともしないのは、友人の好意を拒むのと同じように見苦しい。好んで寸暇を言論の傾聴にあてるならば、やがて他の人には難解な言葉がよどみなく理解できるようになるであろう
 こうして聞いた言葉は多くの財貨より、はるかに貴重なものであると考えること。なぜなら、一方はすみやかに失われ、他方はすべての時を貫いてとどまるからである。われわれの所有するものの中で唯一、知恵のみが不滅である。何か有用な教えを授けると宣言する人びとを尋ねて、遠路を旅することに怯んではならない
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 世上には言論にひどく反感を抱いている人がいて、哲学する者を罵り、彼らがそのような仕事に励むのは徳のためではなく権勢欲のためだと言う。ぜひとも彼らから聴きたいと思うのだが、なにゆえ一方で雄弁を欲する者をおとしめ、他方で功業を望む者を誉めそやすのか。もし利欲が彼らの唾棄するところであるならば、はるかに多大の利得が言論よりも実業によって生まれているではないか。(中略)徳に背くことなく利得を挙げるならば、その仕事そのものは非難にあたらない。むしろ咎めるべきは、行為において罪過を犯す者、あるいは言論によって人を過たせ、不正に言論を用いる者である。
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 互いに説得し、また欲するところのことについて自分自身に明らかにすることができるようになってはじめて、われわれは野獣の生活から訣別したばかりでなく、集まって城市を建設し法律を立て技術を発明したのであるが、われわれの工夫考案のほとんどすべては、言葉がこれを準備したのである。
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 この言葉の助けによってわれわれは、異論かまびすしいものについて論陣を張り、未知の事柄について考察する。まことに、われわれが他の人びとを説得するために述べる論拠と、ひとり熟慮判断するために用いるそれは同じものであり、多数の会衆の前で弁舌をふるうことのできる者を雄弁家と呼び、懸案をめぐって自分自身を相手に最もよく論議をつくす者を深慮の人とみなすのである。
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 私の見るところ、諸君は発言者を分け隔てず公平に聴くことをしていない。ある者には神経を集中するが、ある者に対してはその声を聴くことすら我慢しない。そして諸君のそういう態度は不思議ではない。諸君はこれまで諸君の欲望におもねる者でなければ、すべて演壇から引き降ろす悪習に染まっているからである。

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 われわれは戦争と平和について討議するために民会に集まって来た。この案件こそ人びとの生活に深甚な影響を及ぼすものであり、これについての審議の正否により、幸不幸が決定するものである。われわれが討議するために集まった議題はかくも重大である。
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 ところが諸君はこのいずれにも等閑にして狂躁をほしいままにしている。われわれがここに集まったのは、すべての発言を聴いて最善の意見を採択すべきだと考えてのことであるのに、すでにいかなる行動をとるべきかは明確に知っているかのごとく、耳に快い煽動家の言葉しか聴こうとしないではないか。しかしながら、いやしくも諸君が国益の追求をねがうならば、むしろ諸君の意見に反対する者の議論に耳を傾けるべきであって、甘言は斥けなければならない。壇上に立って論弁する者のうち、諸君の欲するところを述べる者は、容易に諸君を欺くことができるが、しかし甘言を排して忠告する者が諸君を瞞す気づかいはない。なぜなら、何が有益かを明らかにすることなしには、諸君の意見を変えようとしても到底できるものではないからである。だがその点は措いても、人は過去について判断を下すにせよ、未来について深慮するにせよ、対立する議論を吟味し双方の主張を公平に聴かないでは、事はおぼつかない。
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 私は諸君の見解に反対することの困難を承知している。またそれだけではない。民主制のもとでありながら、ここ民会で「自由な言論」が許されているのは、諸君のためをはかることのできない愚か者のほかになく、また劇場では喜劇作家のほかにない。なんとも恐るべきことに、国家の犯した失態を他国のギリシア人に吹聴する者にはどんな功労者も及ばぬ愛顧を与え、諸君を譴責し訓戒する者には、国事犯を相手にしているかのように不快を隠さない。
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[Book]G. Mathieu et E. Bremond ed. 1929. Isocrate. Discours. vol.1. Paris: Les Belles Lettres.

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I observe, however, that you do not hear with equal favor the speakers who address you, but that, while you give your attention to some, in the case of others you do not even suffer their voice to be heard. And it is not surprising that you do this; for in the past you have formed the habit of driving all the orators from the platform except those who support your desires.

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