Wednesday, June 21, 2006

[Book] 第1感 Blink

[本]グラッドウェル,マルコム.沢田博・阿部尚美訳.2006. 『第1感: 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』.光文社.

やたらと売れているようなので期待して読んだのだが、イマイチ。当たり前のことしか書いていない・・・というか古い!!なんだ今更?な内容。しかも分析が全く科学的でない。ひたすらエピソードが並ぶ。ビジネス書としては許されるのだろうか。よくわからないが、一般化に耐える知見は得られない。エッセイなんだか意見書なんだか何なんだかわからない。ありがちで中途半端なアプローチだ。

更に気になるのは、彼の言う「第1感」の概念に一貫性が見えないことだ。ある時は「時間をかけないで行う判断」を、ある時は「言語化されない情報」を、またある時は「偏見を除いたブラインド・テストによる評価」を指している。全然別のことではなかろうか。

ナンセンスな論理(?)展開も多すぎる。下の引用部分の「仕切りのおかげで純粋な瞬時の認知が可能になり」というのは全く意味不明だ。視覚情報の有無と判断にかかる時間は無関係だ。審査員は視覚情報を制限されたのであって、曲の最初の2秒だけを聴かされたという話ではない。「偏見を取り除いて能力を基準に人を評価すること」と「直感に頼って評価すること」は全く別物だ。「直感に頼って評価すること」と「聴覚優位な情報授与」も全然関係ない。(両方とも厳密に言えば関係有る。しかしこんな大雑把な文脈では断じてない。もっとバイオな問題だ)全くナンセンスだ。

それどころかこの本の他の箇所には「ひと目で見抜く力」という見出しの部分もある。人間の顔の特徴は視覚的・直感的には認知できても言語化できない、というくだりもある。仮に下の引用部分で彼の示唆するとおり視覚情報は「時間のかかる情報処理」で、「直感ではない」のだとしたら、これらのセクションはどう解釈すればいいのだ??「ひと目で見抜く」直観力について語っているではないか??矛盾しまくりだ。「直感に頼れ」と言いたいのか「直感に頼るな」と言いたいのかも全く意味不明。

全体的に、思い付きを書き散らした印象が拭えない。関係のある情報とない情報が判然としている。頭が悪そうな文章だ。よほどバカでなければこいうのは書こうと思っても書けないのではないだろうか。はっきりとダメな本。何でこれがベストセラーなんだろう・・・。

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 ジュリー・ランズマンがメトロポリタン歌劇団の主席ホルン奏者を選ぶオーディションを受けたとき、練習用ホールには仕切りが設けられたばかりだった。そのとき、歌劇団の金管楽器のセクションに女性はいなかった。女性は男性のようにホルンを吹けないというのが「常識」だったからだ。だが、そこにランズマンがやってきて演奏した。素晴らしかった。「最終選考で演奏したとき、結果を聞く前に合格したとわかった」と彼女は言う。「最後の曲を演奏したときにちょっと小細工したの。確実に審査員の印象に残るように、最後の高いドの音をかなり長く伸ばしてみたの。審査員は笑い出したわ。必要以上に伸ばしたから」

 だが、合格者が発表されて彼女が仕切りの後ろいから現れると、みんな息を飲んだ。コナントの場合のように、彼女が女性で、女性のホルン奏者が珍しかったからだけではない。男性の演奏と間違えるような力強く大胆に引き伸ばした高いドの音のせいだけでもない。審査員は彼女を知っていたのだ。ランズマンは以前にメトロポリタン歌劇団で代役として演奏したことがあった。だが耳だけで聴く前は、その演奏の素晴らしさにみんな気づかなかった。仕切りのおかげで純粋な瞬時の認知が可能となり、小さな奇跡が起きたのだ。最初の2秒を大事にすれば、いつでも起きる小さな奇跡だ。そうして彼らは、ランズマンの本当の力を知った。
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[Book] Gladwell, Malcolm. 2005. Blink. NY: Little, Brown and Company.

I have absolutely no idea why this book is a best seller. This doesn't make sense at all. This is a very messy book with messy ideas.

For example, the following part doesn't make sense at all. Visual information has no relation with the length you take for making a decision. Making decision in a brief time and doing it based on prejudice are different things. Making decision based on instinct and doing it based on audio information are different, too. It really doesn't make sense...

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When Julie Landsaman auditioned for the role of principal French horn at the Met, the screens had just gone up in the practice hall. At the time, there were no women in the brass section of the orchestra, because everyone "knew" that women could not play the horn as well as men. But Landsman came and sat down and played -- and she played well. "I knew in my last round that I had won before they told me," she says. "It was because of the way I performed the last piece. I held on to the last high C for a very long time, just to leave no doubt in their minds. And they started to laugh, because it was above and beyond the call of duty." But when they declared her the winner and she stepped out from behind the screen, there was a gasp. It wasn't just that she as a woman, and female horn players were rare, as had been the case with Conant. And it wasn't just that bold, extended high C, which was the kind of macho sound that they expected from a man only. It was because they knew her. Landsman had played for the Met before as a substitute. Until they listened to her with just their ears, however, they had no idea she was so good. When the screen created a pure Blink moment, a small miracle happened, the kind of small miracle that is always possible when we take charge of the first two seconds: they saw her for who she truly was.
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1 comment:

Anonymous said...

"Blink"がなぜベストセラーになったかというと、最近の「論理思考帝国主義」とでも言う流れに対して、本心では納得していない人が意外に多く、その人達の非論理性を非論理的な形で正当化してくれるからだと思います。
ベストセラーになるためには、本を読む能力や論理的思考力の低い人をターゲットにする必要があるというのが現実です。

P.S. 随分blogが変わってびっくり!