Monday, May 08, 2006

【Book】はじめてのディベート Intellectual Training For You

【本】西部直樹.1998.『はじめてのディベート』.あさ出版.

おめでたい感じがする。

とても分かりやすく書かれているし(ちょっと冗長だけど)、初心者用なわけだし、良いのかな・・・と思うのですが・・・。ちょっと表面的というか薄っぺらいというか物足りないというか・・・。いや、でも「はじめての」ディベートなんだから良いのかな・・・。うん。そうかも。良いのかも。

ディベートはそんなに特別な活動じゃないと思う・・・。フォーマットの定まった試合形式のディベートでなく、日常のインフォーマルなものでもディベートと呼べるものは沢山あると思います。なんかちょっと固く構えすぎてるのが違和感になってるのかな・・・あとディベートって凄い!って書いてある割に凄い「理由」に他のコミュニケーションスタイルとの違いが含まれていないのもちょっと・・・差別化がはかれていない気がする・・・けど初心者にはそんなの書かれても仕方ないのかな・・・。

うん。良いのかも。これはこれで。

ただし、準備期間が長いディベート(NDT/CEDAスタイル。NAFAのフォーマットはアメリカのNDTやCEDAで使われているフォーマットの輸入版)を「伝統型」と呼ぶのは明らかにおかしい。歴史の長さはここで「議会型」と呼んでいるイギリスの教育ディベートの方があるはずなので・・・。例えばケンブリッジのディベート部(Cambridge Union http://www.cambridge-union.org/)が設立されたのは1815年です。イギリスのディベートがこういうStudent Union系に運営されているのに対し、アメリカのディベートはスピーチ・コミュニケーション学科に併設されていることが多いようです。NCAの前身(the National Association of Academic Teachers of Public Speaking)が設立されたのが1914年。それ系の学問がある程度の地位を築いたのがその少し前・・・と考えても、おそらくアメリカの大学にDebate Squadが誕生したのよりケンブリッジ・ユニオンの方がかなり古いでしょう。フォーマット限定で言えばNDTはまだ60年くらいの歴史しかないし、CEDAに至ってはNDTより若いし。リンカーン・ダグラス式の由来になっている大統領選ディベートは1860年だけど、その時点では大統領選ディベートであってまだ教育ディベートじゃないし、そもそも1860年はケンブリッジ・ユニオンができたのより後だし。どんなに控えめに言っても、この本が想定しているスタイルをイギリスの議会型と引き比べて「伝統型」と呼ぶに足る条件は全く整っていないと思います。

一体何を根拠にNAFA系(いやさJDA系?教室連盟系?ともかくNDT/CEDAと似たジャッジング・クライテリアを共有しているコミュニティ)を「伝統型」と呼ぶのか・・・?こういうのは事実関係を確認するのが簡単な部類の事項だと思うんですが・・・クリティカル・シンキングを教えているのにチェックしないのだろうか。こういう基本的な情報は。やっぱり日本のNDT/CEDAスタイルディベート界はアメリカを通してしか世界を見ていないように思えて心配です。なんかマインド・セットがあるんじゃないでしょうか・・・。アメリカのディベートの良さは重々尊重しますし私自身ファンですが、あまり近視眼的になるのは良くないと思います。ああ、でもこの名称はこの著者が用いてるだけでJDAやNAFAの人が自分たちのディベートを「伝統型」と読んでるわけじゃないから、あくまでも問題はこの著者個人か。うーん・・・でもなぁ・・・JDAや教室連盟の名称がバンバンこの本の中に書いてあるしなぁ・・・

以下、引用。
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 なぜ、これほど多くの場所でディベートは行われているのでしょうか。
 それは、ディベートが教育の優れた手法と認識されているからです。つまり、ディベートを行うことで大きな教育効果があるからです。
 その教育効果を一言で言えば、「知的基礎体力」の鍛錬ができる、ということにつきます。「知的基礎体力」というと少しむずかしい感じがしますが、要は「聴く」「話す」「考える」力のことです。この三つの基礎的な能力は、仕事上あるいは日常生活を行う上で欠かすことのできない非常に大切な技術でありながら、あまりに当たり前すぎて、改めて鍛え直す必要性を感じることはあまりありません。
 しかし、何につけても訓練を受けた人とそうでない人とでは格段に差がつきます。それが基本的な能力であればあるほど、その差は色々な場面で大きな違いとなってあらわれます。例えば、「歩く」という私たちが日常行っている肉体的行為も、モデルの人たちのように歩く訓練を受けた人と、そうでない人を比べてみれば、そこには歴然とした差があります。
 「知的基礎体力」も、訓練を受けることによって鍛えられ、スキルとして身についていきます。そして鍛えた人とそうでない人とでは、決定的に差があらわれます。ディベートは、その訓練の方法として最適であると考えられているのです。
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 教育ディベートは、事前の準備時間の長さによって「伝統型(アカデミックディベート)」と、「議会型(イギリス式)」の二つに分類されます。事前の準備が長いのが「伝統型」で、事前の準備時間がほとんどないかのが「議会型」です。
 「伝統型」の場合は、テーマを与えられてから数時間から数ヶ月の間、ディベートの試合に向けての準備をします。
 これに対して「議会型」の場合、テーマの与えられてから試合までの準備時間は、わずか数分(だいたい一五分くらい)しかありません。
 ちなみに議会型というのは、議会政治の発祥ともなったイギリス議会の形に似ていることから、こう命名されたようです。
 現在、日本で行われている教育ディベートでは、ほとんどが、前者の「伝統型」ディベートを採用しています。
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【Book】NISHIBE, Naoki, 1998. Intellectual Training For You. Tokyo: Asashuppan.



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