Monday, May 22, 2006

【Book】ソクラテスのカフェ Un cafe pour Socrate

【本】ソーテ,マルク.堀内ゆかり訳.1996.『ソクラテスのカフェ』.紀伊国屋書店.

随分前に読んだ本で、最近読み返しました。このマルク・ソーテという人が始めた「哲学カフェ」はあっという間に世界中に広がり、彼の死後も続いています。哲学カフェというのは、週に一度カフェに集まって哲学的なディスカッションを交わすというもので、参加資格は不問というもののようです。ギリシアのアゴラでされた哲学に回帰しようというコンセプトがあったようです。ディスカッションのテーマも、誰でも参加できるように一般的なものが続いています。「暴力とは何か」とか。「はかない芸術も芸術か」とか。この本では、その哲学カフェがどのように行われたかエッセイ形式で書かれています。

読んで思うのは、誰とでも意見を交わそうというコンセプトには惹かれるものの、やはりある程度深くて面白みのある議論をしようと思ったら参加者が議論の基本的なルールを理解していることが不可欠なのではないか、ということでした。知識のレベルはともかくとして、議論のルールは知っててもらわないと創造的な議論にはならないのではないかと。ディスカッションというのは議論の焦点がずれ易いものだと思うので尚更だと思います。ディベートのようにゴールが限定されていないからこそ、進行には細心の注意が必要でしょう。

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哲学は、この一世紀以上というもの、科学の進歩によって「知」の領域から追い払われ、さらに近年は、実践的人文諸科学に地位を奪われてしまった。真理探究の鍵を握っているという自負は、量子物理学や生化学の成果によって物笑いの種にされ、その一方で、人間社会の真っただ中に入り込むことによって現実の問題解決をめざす社会学や政治経済学、心理学などの学問に席を譲らざるを得なくなった。哲学も抵抗するにはしたが、何ら手を打つことはできなかった。フランスでもドイツでも、啓蒙主義精神がもっとも顕著にあらわれたこの両国にあってさえ、哲学の失墜は阻めなかった。フランクフルト学派もカミュも無力だった。サルトルもその遅ればせの政治参加によって、哲学がかろうじて保っていたわずかな信頼を汲み尽くしてしまい、彼の死後は、輝かしい異端か、はたまた世俗的なご都合主義、このどちらかの後継者しか残っていない。片や、ドゥールーズ、フーコー、ボードリヤールだとかの面々、片や「新哲学者」たちである。光も熱も失ってしまった哲学は、今日では死んだ星、落ちぶれた神とみなされ、かつておのれが宗教に課した運命に甘んじているのである。
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 この自由で寛大な討論の形態はつねに誘惑にさらされており、それに負ければ、すぐさま泡と消えてしまうのだ。その最たるものは知性偏重主義、すなわち「糞まじめな」領域へと競って上昇しようとする傾向である。「哲学」である以上、この学問に固有の概念だけを扱い、完全に自分のものとした引用で武装した発言をし、カントやヘーゲル、ハイデガーだのを引き合いに出さねばならず、そこらのカフェの議論のような低劣な議論に身を落としてはならない、と考える参加者もいた。この立場から、こうしたタイプの知識を操れる人にしか発言させないとなるまでの間はほんの一歩で、実際、彼らは無頓着にその一歩を越えようとしていた。常連の弁の立つ人たちのうちの幾人かはこの方向で議論に介入し、どうでもいい奴らに言いたい放題言わせているといって私を非難した。
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 哲学に決まった対象はない。哲学とは、教えたり研究したりする「分野」ではなく、ある精神状態、自分の知性の使い方なのだ。哲学者に特定の対象はない。哲学者は、紋切り型や常識的世論、支配的なイデオロギー、宗教的啓示、科学によって出された答えなどから出発して、それらを吟味する。従って、どんな素材も哲学的考察の対象となる。新たに哲学を始める人も、テーマの立派さに怯える必要はない。そんなものはないのだ。哲学の対象に、特別なものはない。「哲学する」とは、すでに答えは与えられているが実際にはうまくいっていない問題を、文字どおり「再検討の対象とする」ことなのだ。答えは無数にあり、それらの答えが対立したり、矛盾し合うこともある。哲学者は、しっかり見て、その混乱を整理し、理性をレフェリーとするべく努める。
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【Book】Sautet, Marc. 1995. Un cafe pour Socrate. Paris: Robert Laffont.

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